AWSと言えば米Amazonが提供するクラウドサービスという印象だ。実際、会社としてはAmazonの子会社ではあるものの、中身的には全くの別会社である。
商品を売るのがAmazonで、クラウドソリューションを売るのがAWSだ。日本においては、2022年2月より米国Amazon Web Services, Inc.(AWS Inc.)に代わって、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(AWS Japan)に全てのアカウントが移管されている。
AWSは以前から、クラウドを使った映像制作や放送業務ソリューションを支援しており、日本最大の放送機器展示会「Inter BEE」でもすっかりおなじみのメンバーとなった。正直なことを言うと、出展を始めた頃は説明員が放送業界のことを理解しておらず、質問してもお互いがなにを言ってるのか分からないということが数年続いたが、具体的な採用例がでてきたことで、近年加速度的に話が通じるようになってきている。
2023年のAWSの展示は、パートナー企業とのコラボレーションにより、放送局の制作から放送プロセスまでをクラウド上で実現したデモとなっていた。海外ではすでに放送をクラウドから送出しているところもあるが、日本の規格に合わせてシステムを組んだ例はまだ珍しい。
プロダクション業務でクラウドというと、リモートプロダクションが花形のように語られるところではあるが、クラウド上のGPUリソースを利用したハイエンドプロセッシングも大きく進化している。
バーチャルプロダクションとしては、オンラインゲーム等で使われているリアルタイム3D制作ツール「Unreal Engine 5」を使って、2Dの写真から3Dモデルを生成し、バーチャルセットとして使用するデモが展示されていた。
本編の映像として使用するにはまだ粗いが、ロケハンで撮影してきた写真を元に撮影プランやアングル、カメラワークを検討するといったプロセスには便利だろう。もちろん最終的には現場ありきではあるが、スタッフを現場に集めてからああでもないこうでもないと検討していると、建て込みやセッティングのやり直しが多く発生する。プリプロダクション時にこうしたツールが使用できれば、最終的な制作コストは下げられる。
リモート編集としては、クラウド上の仮想ワークステーションにインストールしたDaVinci ResolveとPremiere Proによる編集を体験できた。間にリモートディスプレイプロトコル「NICE DCV」を挟むことで、カラーグレーディングに必要な4:4:4の信号をモニタリングできるほか、コントローラーやタブレットからの操作も低遅延でレスポンスが返ってくる。
実際にSpeed Editorでクラウド上のDaVinci Resolveを操作してみたが、普段使用しているオンプレミスでの操作感とほぼ遜色ないレスポンスで、「遠くにあるもの」を触っている感はない。
生成系AIは、一般には撮影なしに映像コンテンツが作れることが期待されているが、プロ分野では映像補正や補間のほうで注目されている。AWSが提案するのは、2つの技術だ。
1つ目は、アップスケーリングを生成系AIで行う技術。従来アップスケーリングには超解像技術が使われてきた。これも一種の機械学習だが、2000年代の技術である。一方こちらの技術は、映像をフレーム単位に分解し、ピクセル単位で補間処理を行う。ポイントは、ノードを並列化することで処理速度が上げられることだ。
SD解像度の旧コンテンツを大量に所有するプロダクションは多いが、こうした旧作を4Kリマスター化して再配信する際に、超解像以外の選択肢が使える事になる。
もう1つは、フレーム間を補間して滑らかなスーパースローモーションを作る技術だ。スポーツ中継のプレイバックで用いられるスーパースローモーションは、専用のハイスピードカメラで高速撮影し、それを通常フレームレートで再生する事で成立している。例えば240fpsで撮影した映像を60fpsで再生すれば4倍スローに、30fpsで再生すれば8倍スローになる。
ただこの方法では、特定のカメラの映像しかスローにできない、ハイスピードカメラのコストが高いという難点がある。一方この技術を使えば、通常撮影の映像からでもスーパースローモーションが制作できる。
現時点での課題は、フレーム分解ができないので分散処理が難しいことである。また基本的にはファイル変換となるので、スローにしたい動画を切り出してクラウドに送り、処理終わりを待つというフローになる。編集ものならともかく、ライブスポーツのリプレイには間に合わない可能性がある。とはいえスポーツニュースで使用すれば、ライブでは放送できなかったスーパースローが解説付きで見せられるなど、新しいコンテンツを産む可能性もある。
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