ITmedia NEWS > 速報 >

原作の漫画家が自らドラマ脚本を書いた理由 外された脚本家は「苦い経験」 日テレ「セクシー田中さん」巡るゴタゴタ(1/2 ページ)

» 2024年01月27日 18時34分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 日本テレビで2023年10月から12月に放送したドラマ「セクシー田中さん」について、原作者で漫画家の芦原妃名子さんが自身のブログとX(旧Twitter)アカウントで苦言を呈した。ドラマ化に当たって約束した内容が守られず、全10話のうち、9話と10話の脚本を自ら書くことになった経緯を説明している。

ドラマ「セクシー田中さん」公式サイト(日本テレビ)

 ブログによると、ドラマ化の話に芦原さんが同意したのは23年の6月上旬。「必ず漫画に忠実に」する、そうでない場合には芦原さん自身が加筆修正する約束を取り付けた。またドラマの終盤は芦原さん自身が“あらすじ”やセリフを用意し、脚本に落とし込む際に原則変更しないことを希望した。

 というのも、原作漫画は連載中(小学館『姉系プチコミック』掲載)で完結していないから。ドラマで描かれるオリジナルの終盤が、漫画の結末に影響を及ぼす可能性を考慮した。

 ただ、こうした条件は、制作スタッフに対して「大変失礼」(芦原さん)と承知していたため、この条件で良いか事前に小学館を通じて何度も確認したという。

王道の展開、枠にハマったキャラクター

 ところが始まってみると、芦原さんの意図に反し、毎回大きく改変したプロットや脚本が提出された。芦原さんは変えてほしくない理由を説明し、加筆修正した。これにより1〜7話はほぼ原作通りとなったものの、この時点で「相当疲弊していました」という。

 芦原さんが指摘する改変は、主に以下のような点だ。

 ・漫画であえてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に変えられてしまう

  • 個性の強い各キャラクター、特に朱里・小西・進吾は原作から大きくかけ離れた別人のようなキャラクターに変更される
  • 「性被害未遂」「アフターピル」「男性の生きづらさ」「小西と進吾の長い対話」など、漫画「セクシー田中さん」の核として描いたシーンが大幅にカットや削除され、まともに描かれない。理由を聞いても、納得できる返事がない

 他にも細かい不満は多々あり、芦原さんは「作品の個性を消されてしまうなら、私はドラマ化を今からでもやめたいぐらいだ」と何度も訴えたという。

 オリジナル展開となるドラマ終盤(8〜10話)の脚本も、芦原さんが用意したあらすじやセリフを大幅に改変されていた。小学館を通じて抗議しても改善されず、芦原さんは脚本家の交代を要求。芦原さんが書いた脚本を制作側が整える形となった。

ドラマ「セクシー田中さん」のスタッフ一覧。9話と10話には原作者である芦原さんの名前が入っている(公式サイトより)

外された脚本家は「苦い経験」

 ただしドラマの最終回は、視聴者の間で賛否両論だったようだ。X(旧Twitter)上では「とても良かった」「個人的には賛成派」といった意見がある一方、「違和感があった」「話が飛んだ印象」という感想も散見される。

 芦原さんは最終話について「私の力不足が露呈する形となり反省しきり」と視聴者やファンに謝罪。漫画のしめ切りも重なり、限られた時間で脚本を執筆することになったという。

 一方、仕事を外される形になった脚本家の相沢友子さんは、ドラマ最終回の放送前(23年12月)に自身のInstagramアカウントで、「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」と報告していた。

 また最終回の放送後には「最終回についてコメントやDMをたくさんいただきました」と明かし、自分が執筆した脚本ではないと改めて説明。さらに「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています」とゴタゴタがあったことも示唆していた。

脚本家・相沢友子さんのInstagram投稿

 原作者・芦原さんのブログ記事は、こうした視聴者や関係者の反応を受け、自分の立場から背景を説明する意図があったとみられる。しかし現場とのパイプ役になるはずだったプロデューサー陣やドラマ制作現場のあり方に苦言を呈する結果となった。

 X上では、芦原さんの投稿に対して、テレビ関係者や漫画家も多く反応している。テレビドラマ製作に携わり、短編映画「回復タイム」を自主製作した山口智誠監督は、「こういうことが起こってしまうテレビ業界で自分も働いているのが本当に嫌です。向き合うことから逃げて本来尊重すべきものをないがしろにしている現場が山ほどあります」としている。

 実写ドラマや映画も大ヒットした「のだめカンタービレ」の二ノ宮知子さんは、「原作者が予め条件を出すのは自分の作品と心を守るためなので、それが守られないなら、自分とその後に続く作家を守るためにも声を上げるしかないよね…」とポスト。ただし、改変が悪いわけではなく、「予め出した条件が守られているかどうかが問題」と指摘している。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.