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庵野氏がSlackフル活用、Confluenceには100GBの設定資料――「シン・エヴァ」制作支えたITシステム(3/4 ページ)

» 2024年02月14日 15時00分 公開

シン・エヴァ制作のカギ、「バーチャルカメラ」も実は内製

 シン・エヴァの制作に活躍した「バーチャルカメラ」も内製だ。バーチャルカメラとは、スタジオ空間と連動した3DCG空間を用意し、カメラを持ってスタジオの中を動き回ることで、トラッキングした動きをもとに3D空間を撮影する技術。現実のカメラワークで3DCG内を撮影できるため、実際の撮影に入る前にアングルや構図の可能性を広げられる。

カラーが当初導入したバーチャルカメラシステム(電子書籍から抜粋)

 制作当初は他社のバーチャルカメラを使っていたが、コストが高く小回りが効かないなどの問題があったため、協力会社とともに内製化。カラー単体でアップデートを続けた。

 バーチャルカメラのシステムは、Unityやnode.js、Steam VRを、人間が使うカメラハードウェアにはHTC VIVEやNintendo Switchのコントローラー(Joy-Con)、iPhoneなどが使われている。システム自体は、米IntelのXeonプロセッサーに米NVIDIAのGeforce RTX 2070(GTX 1070から途中で刷新)で組まれたマシンで動作している(詳細は同書に記載)。

協力会社と共に開発し、カラーがアップデートし続けた。Joy-ConとHTC VIVEのトラッカーが内製のフレームに取り付けられている(電子書籍から抜粋)

Confluenceに100GB分の設定資料 問い合わせのやりとりを省力化

 カラーでは、豪Atlassianのコラボレーションツール「Confluence」にあらゆる資料が集約している。設定やキャラデザイン、メカデザインの経緯から、メール、打ち合わせの記録まで、総データ量は100GBにもなるという。

 設定関連のデータを整理し、記録していったのは、シン・エヴァで設定制作を担当した田中隼人氏だ。設定制作は、脚本と画コンテをベースに、シーンごとの設定――時間や天候、服装、小道具など――を整理して管理する役割だ。

 「デザインが決定するまでさまざまな経緯があり、スタッフにとっては『なぜこうなったのか』が重要なことが分かっていたため、履歴をひとつも漏らさず残している」(成田氏)

 例えば、『シン・エヴァ』のAvanTitleに登場した「8号機」のデザイン。庵野氏が描いた最初のラフに始まり、デザインが決定するまですべての経緯がConfluenceで確認できる。

 「田中さんは設定に関するすべての連絡窓口であり、デザイナーへの設定の発注と進行管理をする立場でもある。何を聞いても答えられる。設定に関しては田中さんに聞けば分かるが、Confluenceを見ても分かるようになっていた」(成田氏)

 進行管理の成田氏にもさまざまな質問が飛んできたが「担当外のことを聞かれても、直接の担当者に問い合わせる必要なく、Confluenceを見るだけで答えられることが多かった」という。

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