映像制作業界の働き方が変わりつつある。ともすれば労働集約的で、“ブラック”とも言われがちなコンテンツ産業だが、ITが現場を変えつつあるのだ。
庵野秀明氏が率いるカラーは、IT化で制作効率を高めている映像スタジオの一つだ。システム部を社内に持ち、自前でサーバやインフラを整備している。
「自社内にシステム部があるアニメ制作会社は2017年当時、珍しい方だと感じていました」。同年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)から転職し、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で制作進行を担当した成田和優氏(現在はフリーランス)は振り返る。
前編・後編に続き、インタビュー番外編としてシン・エヴァの制作を支えたITシステムを、成田氏の言葉と、成田氏が中心となってカラーが編集したシン・エヴァの記録書「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン −実績・省察・評価・総括−」から確認する。
プロフィール
1984年生まれ。2008年にJAXAに入社し、約9年半勤務した後、2017年にカラーへ入社。有限会社ゼクシズに出向し、『あさがおと加瀬さん。』に制作進行として携わった後、カラーに復帰。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の制作進行を担当。2023年7月にプロジェクトとしての『シン・エヴァ』映画制作を振り返る公式報告書籍『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』を上梓。2023年11月下旬に株式会社カラーを退社、以降フリーランスとなる。
SNSアカウント:@Narita_Kazumasa
書籍公式サイト: https://www.khara.co.jp/project-eva/
電子版詳細:https://www.khara.co.jp/2023/07/10/2023071018/
アニメ制作のデジタル化は1990年代ごろから急速に進んでおり、2000年代には定着。カラーにもシン・エヴァ制作前からシステム部があり、ネットワークやサーバといった制作用システムが整備されていた。一方で「潜在的な問題が積み重なっていた」と成田氏は言う。
当時の問題について前出の書籍には、「作品制作を最優先にするあまり、システムの根本的な思想・ビジョンが定まっていなかった」「プロジェクトごとにシステムマネジメントが行われており、ノウハウが蓄積されず、引き継ぎが困難などの問題があった」「その結果、システム障害が長引くこともあった」などと書かれている。
問題を分析してビジョンを定め、システムを設計・構築し直したのが、執行役員/技術管理統括の鈴木慎之介氏だ。鈴木氏は2000年に高校生でドワンゴに入社。「ニコニコ動画」に実質開発総指揮として立ち上げに携わるなどした後、シン・エヴァ制作中の2018年に執行役員になった。
鈴木氏が定めたシステムのビジョンは「クリエイティブに専念できる環境の構築」「継続性のあるシステムの実現」の2つだ。庵野氏をはじめとしたトップにビジョンと投資計画を説明し、承認を得てシステムを整備していった。
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