実質的な廃止が決まった「うるう秒」。過去には情報通信システムのトラブルを引き起こす要因にもなってきたが、今後IT業界はうるう秒に悩まされることはないのだろうか。日本でうるう秒調整の対応を主導する情報通信研究機構(NICT)に見通しを聞いた。
そもそも、うるう秒とは何か。NICTのWebサイトではこう説明している。「時間や時刻は、以前は地球の公転・自転に基づく天文時が使われていましたが、科学の進歩に応じた高精度な時刻が必要になり、 現在使われている時刻は、原子時計をもとに決められています。規則正しい原子時計と地球の自転に基づく時刻の差が±0.9秒以内になるように、原子時計の時刻に1秒だけ調整を行った時刻を協定世界時(UTC)と呼び、 現在、この時刻が世界の標準時として一般に使われています。この1秒の調整が“うるう秒”です」。
うるう秒調整の実施を決定するのは、地球の回転を観測している国際機関「国際地球回転・基準系事業」(IERS)で、実施は不定期。地球を観測していて、UT1とUTCのズレが大きくなると予測された場合、1月1日もしくは7月1日の午前8時59分59秒と9時00分00秒の間に「8時59分60秒」を加える。理論上は1秒を引く調整の可能性もあるが、これまで発生していない。
しかし、この1秒は情報通信システムにとって大きな問題。例えばシステムを動かすプログラムが「60秒」というイレギュラーな時刻表示に対応できず誤作動を起こすかもしれない。分散化を取り入れているシステムでは、それぞれの時刻表記の同期がずれて不具合が起こる可能性もある。
実際、デジタル化が進んだ2010年代には、うるう秒調整に伴うトラブルが頻発した。12年7月に実施した時は、オーストラリアのカンタス航空や米国のソーシャルニュースサイト「Reddit 」で大規模な障害が発生。カンタス航空では搭乗予約システムが使えず、フライトが2時間遅れた。Redditでは30〜40分間アクセスできなくなった。他にもLinuxで突如カーネルのCPU使用率が跳ね上がり、様々なWebサイトが影響を受けた。
15年7月の時は、米Twitter、Instagram、Pinterest、Netflix、AmazonなどメジャーなSNSやネットサービスで障害が発生。16年の時はCDNを提供するCloudflareが影響を受けた。このように主な障害だけを挙げてもかなり多い。
IT業界は過去20年以上にわたり、うるう秒の廃止を訴えてきた。例えば米Metaは22年に「うるう秒は1972年には受け入れられる解決策だったかもしれないが、現在では利益よりも害をもたらす危険な行為」と指摘。結局、その年の国際度量衡総会(CGPM)で35年までに新たなUTCを導入し、うるう秒調整を廃止することが決まった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR