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授乳中に母親の“スマホいじり”は本当にダメなのか? 大量のカメラとセンサーで神戸大学などが分析ちょっと昔のInnovative Tech(1/2 ページ)

» 2024年04月12日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

ちょっと昔のInnovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。

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 神戸大学大学院と東邦大学に所属する研究者らが2018年に発表した論文「授乳時における母親のスマートフォン操作と乳児のぐずりの関係調査」は、授乳中のスマートフォン操作(以下、スマホ操作)が乳児のぐずりを引き起こしてるのかを分析した研究報告である。

実験時のセットアップ

 実験では、生後4〜8カ月の乳児とその母親5組(A〜E)を対象に、授乳中のスマホ操作が乳児の行動にどのような変化を与えるのかを調査した。床に座った状態で授乳のみと、スマホ操作しながらの授乳とで比較して考察した。

 母親の両手首には加速度・角速度センサーを、前腕部には筋電センサーを装着し、腕の動きや力の入れ具合をモニタリングする。また、座面センサーとモーションセンサー「Kinect」を用いて、母親の姿勢の変化も詳しく分析する。乳児の精神的要因を探るため、母親の正面と左右に3台のビデオカメラを設置。これにより、母親の視線が乳児からそれた時に、乳児の視線や身体の動きがどう変化するかを観察できる。

 被験者には「授乳のみの状態」「スマホを乳児の視界に入らない状態でスマホ操作しながら授乳」「スマホを乳児の視界に入る状態でスマホ操作しながら授乳」をしてもらった。

 結果は、実験中に観察できた乳児の変化は「手を動かす」「足を動かす」「声を上げる」「母乳を飲まない」「母親をたたく」「スマートフォンを触る」の6種類であった。各組それぞれの反応で個体差があったため、計測ができた4組を紹介する。

被験者Aの場合 

被験者Aの授乳体勢
被験者Aの乳児にみられた変化

 母親は実験中ずっと乳児を左手で抱き、スマホ操作時は右手で行っていた。乳児の手足の動きは、授乳のみの(a3)でも短時間見られたが、スマホ操作中の(b)、(c)、(d)でより多く観察できた。特に(d)では、母親がスマホを乳児の視界に近づけると、乳児が手を動かしてスマホに触ろうとする様子が見られた。

 乳児がスマホ操作時に足をばたつかせていたのは、(a)の状態では母親が右手で乳児の足を支えていたのに対し、(b)、(c)、(d)では右手がスマホ操作で離れたため、乳児の足が自由に動けるようになったことが原因と考えられる。つまり、乳児の変化は母親の体勢変化と関連している可能性がある。

被験者Bの場合

被験者Bの授乳体勢
被験者Bの乳児にみられた変化

 母親は実験中ずっと左手で乳児を抱き、スマートフォン操作は右手で行っていた。実験中、手や足を動かす、母乳を飲まないといった乳児の行動が多く見られたが、これらはスマートフォン操作の有無に関係なく起こっていたため、スマートフォン操作との関連はないと考えられる。

 一方、(b)での声を上げる、(d)でのスマートフォンを触るという行動は、授乳のみの状態では見られなかった変化であり、スマートフォン操作との関係がある可能性がある。

 視線データの分析からは、乳児のぐずり行動の直前には乳児が母親の顔を見ていることが多いことが分かった。その際の母親の視線は、スマートフォンを見ている場合もあったが、乳児を見ている場合の方が多く、視線とぐずり行動との関係はないと考えられる。

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