映像業界にとって、仕事が増えるのはいいことだといえる。ただしそれが、利益と比例しているならの話だ。
先の調査で、各カテゴリーの時給単価を比較したグラフを見ると、賃金が低下したトップは「翻訳」だが、それに継いで低下しているのが、「ビデオ編集・制作」となっている。つまり仕事が増えたが単価は下がっているので、フリーランスのビデオ編集・制作者は、忙しくなったが収入は変わらず、といった状況になっている。つまり、買いたたかれているわけである。
一方でグラフィックデザインやWebデザインは、仕事量も増え、時給単価も上昇している。つまり、価値が認められてきているのだ。この差は一体なんなのか。
買いたたかれる理由はいくつか考えられる。1つは、需要に対して供給が多すぎることだ。日本でもここ2〜3年で広告を見かけるようになってきているが、ビデオ編集ができます、Premiere Proが使えます的な人材を集めて仕事をあっせんする事業者が増えている。これは動画編集であっても、Webライター同様にアウトソーシング可能と考えられるようになったからだろう。
従来フリーランスのビデオ編集者は、仕事のネットワークの中で、映像制作会社から直接発注を受けて仕事するのが普通であった。だが発注元が一般企業である場合、映像制作のネットワークの中に居ないので、あっせん会社に頼る事になる。
あっせん会社は仕事単価の価格を提示し、その金額でやるという人が仕事を取っていくわけで、高い仕事から売れていくわけだが、必ずしも優秀な順にスロットが埋まっていくわけでもない。出遅れれば安い仕事しか残らないし、あっせん会社が中間マージンを取るので、編集者の手取額もそれだけ下がる。発注する側にとっては便利な仕組みだが、これは基本的に買い手市場の方法論である。
もう1つの理由は、ビデオ編集の手腕が、デザイン的な評価に乗らないからだ。例えばグラフィックデザインやWebデザインといった行為は、専門職という意識が強い。クライアントは、デザインに対して好みや変えてほしいところは指示できるが、じゃああんた自分でやれば、といわれてできるものではない。それはAIが取って代われる可能性という話ではなく、最終的にそれを目にする人間のために、人間が責任を取らなければならないパートだからである。
一方でビデオ編集は、20世紀まではまだ専門職という認識もあったが、映像がファイル化されてデータとなったあたりから、一種のデータ処理になってしまった。つまり、訓練すれば誰でもできる、ある種の「要約作業」という認識である。そうでなければ、自分の大事なコンテンツを、実力も分からない、ある意味誰でもいいフリーランスにアウトソースする流れなどあり得ないはずだ。
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