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月面下に隠された地下洞窟へのトンネル発見? 地下空間に月面基地の可能性 イタリアなどの研究者らが発表Innovative Tech

» 2024年07月19日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

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 イタリアのトレント大学とパドヴァ大学などに所属する研究者らが発表した論文「Radar evidence of an accessible cave conduit on the Moon below the Mare Tranquillitatis pit」は、月の海の領域にある穴の下に、アクセス可能な地下洞窟へのトンネルが存在することを示した研究報告である。

地下洞窟へのトンネルをシミュレーションした3Dメッシュモデル

 研究チームは、NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター」(Lunar Reconnaissance Orbiter、LRO)に搭載した小型レーダー装置「Mini-RF」のデータを詳細に分析した。分析の対象となったのは、「静かの海の縦孔」(Mare Tranquillitatis Pit、MTP)として知られる直径約100mの穴である。

 このMTPは、2009年に初めて発見されて以来、月面上で最も深い穴として知られており、その底には地下空間へのアクセスポイントがあるのではないかと長らく推測されてきた。

 研究チームは、Mini-RFが2010年に取得したレーダー画像を綿密に調査した結果、MTPの西側の壁の下から異常な反射信号を検出。この反射信号は、穴の表面形状だけでは説明できないものであり、地下に広がる空洞の存在を強く示唆するものであった。

 さらに研究チームは、レーダーデータと3次元シミュレーションを組み合わせることで、この地下空間の形状を推定することに成功した。その結果、2つの可能性のある洞窟モデルを提示した。

 1つ目のモデル(モデルA)では、洞窟の床は緩やかな傾斜で西側に延びており、通路の長さは25m、最大深度は地表から135mに達する可能性があることを示していた。2つ目のモデル(モデルB)では、急な傾斜を持ち、通路の長さ77m、最大深度175mに達する可能性を示した。どちらのモデルでも、洞窟の幅は約45mと推定している。

上段がモデルA、下段がモデルB
MTPの観測画像と、作成した3Dメッシュモデル

 この発見は、月の溶岩チューブの存在を示唆する。溶岩チューブは、過去の火山活動によって溶岩が流れ出した後に形成された地下空洞であり、放射線や極端な温度変化から保護された安定した環境を提供する可能性がある。そのため、将来の月面基地や居住地として有望視されている。

 研究チームは、この手法を他の月の穴にも適用することで、月面下の構造をより詳細に把握できる可能性があると指摘。Mini-RFの解像度は約15m(方位)×30m(距離)であり、直径80m以上の穴を評価することが可能である。しかし、Mini-RFのデータセットには制限があり、現時点ではMTP以外の穴で地下導管へのアクセスを特定することはできていない。

 また、この研究の手法は、火星の洞窟探査にも応用できる可能性がある。火星では既に1000以上の洞窟入り口を確認しており、この手法を用いることで、将来の探査ミッションにとって重要な情報を提供できる可能性がある。

Source and Image Credits: Carrer, L., Pozzobon, R., Sauro, F. et al. Radar evidence of an accessible cave conduit on the Moon below the Mare Tranquillitatis pit. Nat Astron(2024). https://doi.org/10.1038/s41550-024-02302-y



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