このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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韓国の延世大校と江原大校に所属する研究者らが発表した論文「Flavor-switchable scaffold for cultured meat with enhanced aromatic properties」は、培養肉の風味向上に関する新たな研究報告である。
培養肉は、ステーキやミートボールなどの形状に加工できるようになったが、従来の食肉と同等の風味を再現することが課題となっていた。この問題に対し、研究者らは、加熱時に香りを放出する芳香化合物を用いる新しい解決策を提案した。
このアプローチは、肉の培養中に安定した状態を保つ「Scaffold」と呼ばれる3Dゼラチンベースのハイドロゲルに「Switchable Flavour Compound」(SFC)を組み込むことで実現する。
SFCの特徴は、細胞培養中は安定的にゲル内にとどまり、調理温度(150度)で加熱されたときにのみ風味化合物を放出することである。これにより、従来の食肉で起こるメイラード反応(アミノ酸と糖が高温で反応して風味を生成する過程)を模倣できる。
研究者らは、このゲル上で牛の筋芽細胞を培養して培養肉を作製。電子鼻による分析の結果、SFCを含むゲルで作製した培養肉は、従来の牛肉に近い風味を示した。さらに、3種類のSFCを組み合わせたゲルを用いて培養肉を作製し、その風味特性を評価した結果、単一のSFCを用いた場合よりも、従来の牛肉により近い風味パターンを示すことが明らかになった。
SFCに含まれる化合物には、肉の風味だけでなく、タマネギやナッツなどの風味特性を持つものも含まれている。
Source and Image Credits: Lee, M., Choi, W., Lee, J.M. et al. Flavor-switchable scaffold for cultured meat with enhanced aromatic properties. Nat Commun 15, 5450(2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-49521-5
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