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“皮膚手袋”を手に移植する技術 個人の手に応じた3D人工皮膚を培養 マウスの“皮膚ズボン”では成功Innovative Tech

» 2023年02月17日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 米コロンビア大学に所属する研究者らが発表した論文「Engineering edgeless human skin with enhanced biomechanical properties」は、患者の手の形に応じた手袋型の3D人工皮膚を生成し、グローブをはめるように手を覆って移植する手法を提案した研究報告である。マウスの後ろ足を覆うズボン型の人工皮膚を移植すると、4週間後に四肢の機能を取り戻したという。

手袋型3D人工皮膚

 人工的なヒトの皮膚を体の一部に移植する場合、外科医は縫い合わせるのに高度な技術を要し困難を極める。人工皮膚は平らだが、移植対象の皮膚は不規則な形をしているからだ。

 この問題を解決するために、今回の研究では人工皮膚を複雑な3次元形状に成長させて移植する方法を提案する。手の形はヒトによって異なるため、パーソナライズした3D人工皮膚を作るところから始める。

 まず移植対象の手を3Dレーザースキャンする。次に、コンピュータ支援設計と3Dプリンタを使って、中空で通気性のある手のモデルを作る。この模型の外側に、皮膚の結合組織を作る皮膚線維芽細胞とコラーゲン(構造タンパク質)を組み込む。

 最後に、型の外側をケラチノサイト(表皮の大部分を構成する細胞、角化細胞)の混合物でコーティングし、栄養を与えるための成長培地を注入する。これらプロセスは平らな人工皮膚を作るのと同じ手順で、全工程に約3週間を要する。

手袋型3D人工皮膚の制作プロセス

 このような対象の形に合わせた3D人工皮膚の有効性を評価するため、初期実験としてマウスで行った。マウスに短パンを履かせるように、マウスの後肢に移植する3D人工皮膚を試作した。マウスに移植後4週間、移植片は周囲のマウスの皮膚と完全に一体化し、マウスは四肢の機能を完全に取り戻したという。

マウスの片脚の付け根にズボン型3D人工皮膚を被せている移植の様子。右下のみが移植後4週間後の皮膚が一体化した様子

 マウスの皮膚はヒトの皮膚とは治り方が違うので、研究者たちは次に、よりヒトの皮膚生態に近い大型の動物で移植をテストする予定だという。人間に対する臨床試験は、まだ何年も先になるとしている。

 このように移植対象の皮膚サンプルと、3Dプリンタによる移植対象の部位の型を組み合わせれば、細胞を培養し、増殖させることで各部位のカスタムメイドによる3D人工皮膚が作れることを実証した。

 この方法が可能になれば、縫合の必要性を劇的に減らし、手術の期間を短縮し、美的成果を向上させるだろうという。

Lucifer yellow 透過性実験

Source and Image Credits: Alberto Pappalardo, David Alvarez Cespedes, Shuyang Fang, Abigail R. Herschman, Eun Young Jeon, Kristin M. Myers, Jeffrey W. Kysar, Hasan Erbil Abaci.Engineering edgeless human skin with enhanced biomechanical properties. SCIENCE ADVANCES 27 Jan 2023 Vol 9, Issue 4 DOI: 10.1126/sciadv.ade2514



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