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欧州に学ぶ“放送IP化”のススメ 「放送制御システム」の限界をどう乗り越えるか小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/3 ページ)

» 2024年08月06日 18時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 放送局の基幹システム機材更新は、早いところでは5年おきに半分入れ替え、もしくは10年単位で大幅更新というペースで進められている。放送システムの入れ替えが難しいのは、更新中も放送を止められないところである。従って全面更新ともなれば、局舎を新築するなどして、旧局舎で放送を出しながら平行して工事を進めていくしかないわけだが、資金的な問題もあり、それができる放送局は限られる。

(画像:Sony Europe

 かつてアナログからデジタル放送に入れ替わるときは、大騒動だった。出力がデジタルになれば、その手前のシステムもデジタル化するべきである。最終的にはフルデジタルになるというゴールはあったものの、部分的にはまだ移行できず、A/Dコンバーターを経由してアナログ機材を併用しつつ、数年かけてフルデジタルへの移行が行われた。

 とはいえ、当時のアナログとデジタルは、1対1で1方向伝送であるという点では考え方は共通していた。信号が変わったので機材も全部変わる、という、ある意味単純な話ではあったのだ。だがIPへの転換は、同じデジタルではあるものの、多対多でネットワーク化されることや、機材がハードウェアからソフトウェアベースに変わることから、これまでとは大きく考え方を変えなければならない。

 こうした課題については、IPで先行しているEUに学ぶ事は多い。オランダに拠点を置くSony Europe BVのProfessional Solutions Europeでは、7月にウェビナーを開いてこれらの課題について解説した。今回はこの内容を参考に、放送システムのIP化で何が求められるのかを考えてみたい。

技術革新というより、働き方の革新

 ヨーロッパの放送局では、伝統的なSDIからIPへの変換が進んでいるだけでなく、ハードウェアからソフトウェアというツールの変化もある。以前は放送用の専用ハードウェアが放送局の技術の主流であったが、現在ではソフトウェアベースのアプリケーションで同様の結果が得られるようになっている。

 これにより、専用ハードウェアを集めたスタジオサブのような場所に全員が集まって放送するというスタイルから、ハードウェアとソフトウェアが相互に補完し合う格好でシステムを組み、複数の場所から同時にコントロールするといった利用形態に変化しつつある。

 この本質は、技術的に新しいという事ではない。IP化やソフトウェア化は、基本的にはハードウェアでやってきたことの置き換えだ。だがネットワークの上でそれらがパートごとに分散して存在できるということは、技術革新というよりは、働き方の革新、つまり放送ビジネスのやり方が効率的な方向へ変わってきている、ということである。

 加えて、コンテンツ需要の増加に対して、限られたリソースでどのように対応するかという課題がある。これは3つのカテゴリーで考えるべきである。

 まずスタッフをどこに配置するべきか。カメラマンのように、現地に張り付きでいなければならないスタッフもいれば、別の場所で働けるスタッフもいる。無駄に全員が現場入りする必要はなく、もっと効率的に人員が配置できるだろう、ということである。

 2つ目に、処理を行う場所の問題。それぞれの技術要素を最適な状態に配置するため、どこでそれを行うべきか。例えば現場に近いほうがいいのか、それとも局舎の中で処理すべきなのか。クラウドを利用するなら、プライベートクラウド内なのか、パブリッククラウドの拡張性を利用するべきなのか。

 3つ目に、それらをどのように接続するべきか。5Gやワイドエリア接続のような技術が非常に重要になっているが、これらは全て、異なる拠点、異なる人々を結び付けて、制作プロセスを効率的に連携させるためのものである。

 このゴールは、ハードウェアとソフトウェアの融合、適切なツールの選択、最適な場所への配置によって、効率を最大化することだ。

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