IPのメリットは、3D、UHD、HDRといった必要要件に対して、それぞれ専用のハードウェアはシステムを用意しなくても済むところにある。SDIではそれらの方式が要求する最大要件でシステムを設計して備えなければならなかったが、IPではシステム内の多くがソフトウェア化されることで、どの方式にも対応できる。
とはいえ、ヨーロッパにおいてもシステムを一度にIP化することはできず、部分的な入れ替えが行われている。ここで問題になっているのが、既存の放送制御システム(ブロードキャストコントローラー)の限界だ。放送制御システムとは、映像や音声のルーティングや、カメラやサブなど放送に必要な機器リソースを、放送スケジュールに応じて切り替えるシステムである。
SDIのシステムでは、このブロードキャストコントローラーを中心にしてつながるものはつながるし、つながらないものは人が操作して自動操作可能な空き入力ポートにつなげる必要がある。システムが管理できるものとできないものに、はっきり別れていた。
だがシステム全体がIPになると、ブロードキャストコントローラーを介さなくても各デバイス同士がつながることになる。また遠隔地にある機器も、手元にある機器と同じようにつながってくるため、膨大なデバイスやエンドポイントを管理する必要が出てくる。IPベースになれば、まずブロードキャストコントローラー自体を見直さなければならない。最終的なゴールは、人材や機材がどこに存在してもコンテンツ制作に寄与できるという状況を実現する事だ。
ただそれも一度にやれるわけではなく、IP時代に求められるブロードキャストコントローラーのポイントは5つある。
1.ライブオペレーションの自動化
番組制作には、必要なリソースを予約して確保する必要があるが、それらは毎回同じリソースが使用できるとは限らない。同じ機材でも違う場所にあるのかもしれないし、多くの機器は複数の機能を持っているので、設定変更して使えるようにセットアップしなければならないこともある。またGPIやタリー、インカムなども配備しなければならない。
2.ユーザーがどこにいても機能するUI
ユーザーがどこにいても、必要かつ適切なインタフェースを提供する必要がある。例えばタッチスクリーンで操作できるUIかもしれないし、場合によっては電話かもしれない。どこにいても、その現場に適切なインタフェースが提供されなければならない。
3.タスクに合わせたUIのチューニング
ユーザーそれぞれの役割に応じて、専用の機能のUIを提供する必要がある。全てが操作できるUIを全員に提供し、人が利用するパートを選択するようなUIは、間違いが起こりやすい。使わない機能は隠すといったカスタマイズ性が重要である。
4.見るべきものだけを見せる
各タスクを担当するユーザーは、必要な情報や画面のみを表示し、不要な情報、あるいは見るべきではない情報は表示しないようにする必要がある。これにより、ユーザーは自分のタスクに集中することができる。
5.人材とリソースの安全な接続
旧来のシステムでは、リソースを1箇所に集めて専用線で接続していたため、建屋内の人の出入りだけを監視していれば十分だった。また局内回線をIP化しても、WANから独立していれば問題がなかった。しかしリモートでクラウドを利用するためには外部と局内システムが接続する必要がある。このため、デバイスやソフトウェア、システムにログインする人の安全な接続環境は欠かせないものとなっている。
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