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「AirTag」は犯罪捜査の役に立つ? おとりに使って郵便泥棒を逮捕&盗難車奪還などの事例もこの頃、セキュリティ界隈で

» 2024年09月17日 08時00分 公開
[鈴木聖子ITmedia]

 米カリフォルニア州で郵便物を繰り返し盗まれる被害に遭った女性が、米Appleの紛失防止タグ「AirTag」をおとりに使って容疑者を突き止める出来事があった。AirTagは他にも、盗まれた車を自分で追跡したり、捜査当局が麻薬密売組織を摘発する目的で荷物に仕込んだりといった使い方をされている。犯罪捜査にAirTagはどれだけ有効なのか。

「AirTag」は犯罪捜査の役に立つ?

 米カリフォルニア州サンタバーバラ郡捜査当局の発表によると、同州ロスアラモスの郵便局で郵便物が盗まれたという通報があり、8月19日の朝、警官が駆け付けた。

米カリフォルニア州サンタバーバラ郡捜査当局の発表

 被害者の女性は過去に何度も自分の私書箱から郵便物を盗まれる被害に遭っていた。そこで今回は、AirTagをおとりに入れた荷物を自分宛てに郵送したところ、その荷物が再び私書箱から盗まれた。

 女性はAirTagを使って荷物を追跡。警察はその情報をもとに容疑者の住所を突き止めて、27歳の女と37歳の男を詐欺や窃盗などの容疑で逮捕した。2人はAirTagの入った荷物など被害者の女性宛ての郵便物の他、別の十数人の被害者から盗んだと思われる物品を所持していたという。

 この事件の場合、女性が自分で荷物を取り戻そうとせず、捜査当局に対応を任せたことを当局は評価している。被害者がAirTagで窃盗犯を突き止めたとしても、自分だけで行動を起こせば危険を伴うこともあるためだ。

盗まれた車を取り返した事例も

 ただし被害者がAirTagで窃盗犯を突き止めたとしても、警察がすぐに動いてくれるとは限らない。米ラスベガスで車を盗まれた男性の場合、自分で追跡して車を取り戻した。

 地元放送局のKTNVによると、ある朝、自分の車がなくなっていることに気付いた男性は、車内に入れておいたAirTagを使って車のある場所を特定した。警察には通報したものの、すぐには駆け付けてくれなかったことから、自分のもう1台の車で追跡を続けたところ、相手が盗んだ車を乗り捨てて逃げ、無事に取り戻すことができたという。

 男性は容疑者の男の写真を撮影し、容疑者が逃げ込んだ住宅の場所も警察に通報したが、警察からはその後何の連絡もないと話している。

(関連記事:「AirTag」に車の盗難防止効果を期待、米警察が現地住民に無料配布 カナダではBMWを取り戻した例も

犯人追跡にAirTag利用は有効か?

 実際のところ、泥棒を捕まえる目的でのAirTag利用はどのくらい現実的なのか。

 例えば、郵便物泥棒をつかまえる目的でAirTagをおとりにしたとしても、その郵便物が都合よく盗まれるとは限らず、そのままAirTagまで紛失してしまう可能性もあると、米メディアのCNETは指摘している。

 手慣れた犯罪集団であれば、盗んだ郵便物はすぐに開封して貴重品だけを手元に残し、AirTagなどはすぐに破棄してしまう可能性が大きい。

 それでも小さくて手軽で利用しやすいAirTagは、捜査当局が犯人の追跡に使うこともあるらしい。米麻薬取締局(DEA)が麻薬密売組織宛てと思われる荷物にAirTagを仕込んで摘発しようとしたケースもあった。

 米Forbesによると、2023年5月、国境管理当局が中国の上海から届いた不審な荷物を発見し、禁止薬物の密造に使われるプレス機と判断してDEAに通報した。DEAは麻薬密売組織を追跡する目的で、AirTagをプレス機の内部に隠し、そのまま米マサチューセッツ州の宛先に届けさせたという。最終的に、この荷物を受け取った人物の摘発にこぎつけたのかどうかは分かっていない。

 捜査に詳しい専門家はAirTagについて、警察が現在使っているGPS装置に比べると隠すのが容易で、容疑者に発見されにくい利点があると指摘している。

 ただしAppleはGoogleと共同で、ストーカーなどの悪用対策を強化するためBluetoothを使った追跡デバイス向けの業界規格を作成した。ユーザー本人が知らないうちに、他人のAirTagなどが一定時間、自分と一緒に移動している場合、そのユーザーの端末に警告表示を出す仕組みで、iOS 17.5とAndroid 6.0以降にはこの機能が搭載されている。

 米カリフォルニア州ではAirTagがストーカー行為に利用されているとして、被害者が集団代表訴訟を起こしている。3月にはサンフランシスコの連邦地裁が一部原告の主張について、AirTagはストーカー行為に利用され得るとの判断を示し、今も裁判が続けられている。

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