ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

ネットの力を見誤った? 大反響のヤマダ積立預金、急きょ中止に ヤマダデンキは何を狙っていたのか(2/2 ページ)

» 2024年12月04日 13時21分 公開
[斎藤健二ITmedia]
前のページへ 1|2       

 これは毎月の積立額を設定すると高島屋NEOBANK口座から自動的に引き落とされ、1年間積立を継続すると1カ月分のボーナスが付与される仕組み。月々5000円から10万円までのコースが用意されており、10万円コースなら1年で120万円がたまり、さらに10万円分のボーナスが付与される。

 実質還元率でいうと15%にも相当するサービスであり、2022年6月のサービス開始から1年で2万7000人が利用するに至った。平均積立額は月間1万6000円、全体の8%が10万円の積立を行うなど高額な積み立ても目立つ。

スゴ積みの提供コース

 このスゴ積み、仕組みを見るとヤマダ積立預金にそっくりではないか。高島屋NEOBANKでの成功を見て、ヤマダデンキでも似た施策を展開しようとしたというのは想像に難くない。

友の会と積立預金の違い

 しかし、この2つのサービスは根本部分に大きな違いがある。積立額の使い道だ。スゴ積みの最大の特徴は、積み立てたものは高島屋での買い物にしか使えないことだ。

 実は、スゴ積みは、もともと高島屋が提供していた百貨店「友の会」のサービスをデジタル化したものだ。友の会は、毎月現金を持って店頭に来てもらい積み立ててもらうという来店施策として当初は始まった。これは積み立てとはいうものの、中身は毎月商品券を購入しているのと同じとなる。

 格安販売店ではない百貨店は、優良顧客に対してはもともとけっこうな割引を提供している。例えばクレジットカード「タカシマヤカードゴールド」での買い物には8%のポイントを還元しているし、株主に対しては10%割引になる優待カードを提供している。そうした中では、わざわざ高島屋のために積み立てをしてくれる顧客に対してなら、15%のインセンティブを与えるのも販促施策のうちだ。

 ところがヤマダ積立預金は、積立部分は通常の銀行預金だ。説明文では「家具家電の購入やリフォーム資金などに向けた」とうたっているが、実際には使途に制限はない。

 法的な位置付けも異なる。スゴ積みは割賦販売法の前払式特定取引に該当し、積立額の半分しか保全されない。運営事業者の経営破綻時には全額返還されない可能性もある。対して、ヤマダ積立預金は預金保険制度により1000万円まで保証される銀行預金だ。

 つまり、スゴ積みは商品券の分割購入だが、ヤマダ積立預金は高還元率のポイントが付く銀行預金。この違いが「元本保証付きの超高利回り商品」としてネットで拡散される要因となったのだ。

ヤマダデンキが失った信頼

 販促活動のつもりが投資商品として受け取られた今回の騒動は、まさにヤマダデンキ自身が認めた「事前の想定・準備における見通しの甘さ」を露呈した形となった。

キャンペーン中止の発表全文

 申し込み済みユーザーへのヤマダポイント3000ポイント付与という対応は行われるものの、この混乱がヤマダデンキの信頼を大きく損なったことは否めない。

 特に深刻なのは、このサービスのために急いでヤマダNEOBANK口座を開設した多くのユーザーの存在だ。銀行口座開設は本人確認など手続きが煩雑だが、せっかく開設しても積立預金の申し込みは停止され、結局サービスも中止。口座開設だけで終わったユーザーには補償のポイントも付与されない。

 近年、金融機関による魅力的なキャンペーンで口座開設を促し、実際の応募時には「早期終了」と告げるケースが散見される。「キャンペーンであり金融サービスではない」「早期終了の可能性は明記済み」という論理で安易に中止する姿勢には疑問が残る。

 今回の対応でヤマダデンキが失った顧客からの信頼は小さくない。少なくとも、ヤマダNEOBANK口座開設者に対して、納得性のある代替サービスを提供することが望まれるだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR