ITmedia NEWS > 社会とIT >

何が変わる? 「次期Suica」大刷新の中身 タッチいらずのウォークスルー改札はどう実現するのか(2/4 ページ)

» 2024年12月17日 16時30分 公開

センターサーバへの段階的移行とそれで実現されること

 現在、Suicaはリアルタイムでのオンライン処理を行っていない。駅の改札や店舗での決済など、いちどSuicaの読み取り機が動作しているローカルでSuica残高を差し引く処理をしつつ、定期的にセンターサーバと同期を行っている。

 こうした仕組みになっている最大の理由は、Suicaが初めて導入された2000年前後の時期にはサーバの処理能力もネットワーク回線も貧弱で、ローカルでいったん処理を完結しないと処理速度を出せなかったことに起因する。

 それが現在ではクレジットカードで改札通過が可能な“タッチ”乗車のような仕組みが実現できているわけで、Suicaもまたリニューアルの過程でセンターサーバ処理へと移行しつつある。

 センターサーバ化で実現できる機能は多い。ローカル処理では改札時に参照する“運賃テーブル”のサイズの制約から限界があり、現状で6つに分かれている「Suicaの営業エリア」を1つに統合し、JR東日本の営業管轄内であればどの駅でもSuicaが1枚さえあれば乗り降りが自由にできるようになる。

JR東日本管轄ならどの駅でもSuica1枚で乗り降り可能に(画像:JR東日本)

 いわゆる「エリアまたぎ」と呼ばれるものだが、2027年春頃のタイミングで例えば常磐線で上野駅(首都圏エリア)で入場した後、仙台駅(仙台エリア)で同じSuicaを“タッチ”すればそのまま改札を通過できる。

 これは運賃テーブルの参照処理をセンターサーバ側に持ってきたことで、全営業エリアの駅をカバーする巨大なテーブルであっても処理が可能になるもので、現時点では東北3エリアならびに長野エリアの改札機で導入が進んでいる。

 このセンターサーバ化はSuicaのみならず、QRコードを使った乗車切符の処理も可能にする。乗車駅などの情報が“媒体”に直接記録されるSuicaや磁気切符とは異なり、QRコードは読み取り専用のうえ、複製も容易なことから従来とは違う方法で情報を記録する必要がある。

 一般には「ユニークID」と呼ばれる識別情報をQRコード内に埋め込んでおき、このユニークIDがどの改札で入場し、後で出場したかをリアルタイムで把握することで改札処理を行っている。これにより、仮にQRコードを複製してもまったく同じ切符で連続して複数人が改札内に入場することが難しくなるという仕掛けだ。

 24年10月1日より、JR東日本は「えきねっとQチケ」というサービスを東北エリアで開始しており、同社が提供する「えきねっと」アプリ上で購入した切符のQRコード情報を改札に提示することで移動できる。25年度下期には東京都区内エリア、2026年度下期に上信越エリアでのQチケサービス開始を予告しており、これは既存のSuica改札機がセンターサーバの仕組みに対応するタイミングと連動している。

 詳しくは後述するが、乗車切符のQRコード化は将来的な磁気切符の廃止も睨んでのものとなる。現在JR東日本をはじめ関東地方に路線を持つ鉄道会社8社が連名で既存の磁気切符の段階的な廃止を発表しており、近い将来にも裏面に磁性体の塗布された紙の切符は、QRコードの印刷された一般的な紙の切符へと置き換わることになる。

 一方でJR東日本によればJR他社を含む中長距離の(紙の)磁気切符については引き続き発券を続けるとのことで、JR東日本の営業区内限定とはなるが「えきねっとQチケ」によるスマートフォンの画面にQRコードを表示する電子タイプの切符と併用される形となる。

 このほか、センターサーバ化により実現されるのが「柔軟な運賃体系」と「スマートフォンと連動した新たなサービス」だ。

 従来、Suicaの改札処理はいったん全てローカル内で完結する必要があったため、運賃の支払いに必要な残高をあらかじめSuicaの「バリュー」としてカード内にプリペイド方式で記録しておき、出場時にはその場で残高を引き落とすということしかできなかった。

 「店舗でSuicaでの支払い処理をキャンセルしたら現金で返金された」という経験があるかもしれないが、クレジットカード等では容易な取り消し処理がSuicaでは難しい理由がここにある。また、「1日あたりどんなに乗車しても上限は1000円」といった“料金キャップ”の設定や、買い物金額に応じた割引処理など、“後付け”での料金設定が容易なクレジットカードに比べ、Suicaでは“タッチ”動作をした時点で(割引に必要な情報がそろっていない状態であっても)料金を決定せねばならない点で不利だ。

 前項でのポストペイ対応と含め、全ての請求処理をセンターサーバでリアルタイムで制御することで、プレスリリース内にある「サブスクによる指定駅を起点とした割引運賃商品」のような柔軟な運賃サービスの提供が可能になる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR