このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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オーストラリアのモナシュ大学とデンマークのコペンハーゲン大学に所属する研究者らが発表した論文「Human milk improves the oral bioavailability of the poorly water-soluble drug clofazimine」は、薬が水に溶けにくいという問題を、母乳や牛乳を使って解決しようとした研究報告である。
研究の対象となった薬はクロファジミンという、乳児の感染症治療に使う薬である。この薬は水に溶けにくいため、乳児が飲みやすい形にすることが難しかった。そこで研究チームは、乳児の栄養源として使われている母乳と牛乳に着目した。
実験では、ラットと新生仔ブタにクロファジミンを経口投与した。薬を水に溶かした場合と比べて、母乳や牛乳に溶かして投与すると、体内への吸収が大幅に改善できた。具体的には、ラットでは薬を母乳に溶かすことで吸収率が2.58倍に向上。新生仔ブタでも、母乳で1.54倍、牛乳で1.75倍ほど吸収が良くなった。
このような効果が得られた理由として、乳に含まれるトリグリセリドなどの脂肪が重要な役割を果たしているという。消化の過程で乳の脂肪が分解され、別の成分(脂肪酸やモノグリセリドなど)に変化することによって薬が溶けやすくなると考えられる。
Source and Image Credits: Ellie Ponsonby-Thomas, Anna C. Pham, Shouyuan Huang, Malinda Salim, Laura D. Klein, Simone Margaard Offersen, Thomas Thymann, Ben J. Boyd, Human milk improves the oral bioavailability of the poorly water-soluble drug clofazimine, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, Volume 207, 2025, 114604, ISSN 0939-6411, https://doi.org/10.1016/j.ejpb.2024.114604.
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