このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに所属する研究者が発表した論文「When the phone’s away, people use their computer to play: distance to the smartphone reduces device usage but not overall distraction and task fragmentation during work」は、仕事中におけるスマートフォンの配置が作業の中断や集中力にどのような影響を与えるかを検証した研究報告だ。
スマートフォンは私たちの仕事と私生活のバランスを取るのに役立つ一方で、気が散る原因にもなることが知られている。これを受けて、物理的な環境が行動に与える影響に関する知見から、スマートフォンへのアクセスのしやすさが作業パターンにどう影響するかを調査した。
実験では22人(22歳〜31歳)の参加者がそれぞれ5時間のナレッジワークセッションを2回行った。1回目のセッションでは、スマートフォンを手の届く範囲内のデスク上に置き、2回目のセッションではスマートフォンを約1.5m離れた場所に配置。両条件とも、参加者はスマートフォンを自由に使用できるが、使用後は指定の場所に戻すよう指示した。
実験の結果、スマートフォンが手の届かない場所にあると、参加者のスマートフォン使用時間は約半分(29分から15分へ)に減少し、スマートフォンとの相互作用回数も大幅に減少した(18.5回から6.5回へ)。
しかし興味深いことに、仕事と余暇活動に費やした総時間は両条件間で統計的な差が見られなかった。スマートフォンが手の届きにくい場合、参加者は余暇活動をコンピュータに移行する傾向があり、コンピュータでの余暇時間が増加した(27分から66分へ)。また、作業の断片化や中断のパターンも両条件間で同様であった。
これらの発見は、職場での技術的中断や複数デバイスの使用に関する議論に重要な示唆を与える。予想通り、スマートフォンが手の届く場所にあると使用頻度が増加するが、アクセスを制限しても別の気晴らしの源を見つけるだけで、全体的な作業と余暇のパターンは変わらない。通知による中断も作業中断においては比較的小さな役割しか果たしていないことが明らかになった。
Source and Image Credits: Heitmayer M(2025)When the phone’s away, people use their computer to play: distance to the smartphone reduces device usage but not overall distraction and task fragmentation during work. Front. Comput. Sci. 7:1422244. doi: 10.3389/fcomp.2025.1422244
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