日本でのFSD認可については、国際基準というハードルもあります。日本も参画する国連欧州経済委員会に属する自動車基準調和世界フォーラム(WP29)が定めた基準は、FSD視点からするとずいぶんと厳しいように感じます。例えば、ハンズオフや自動車線変更などの自動操舵に関する各種要件には「自動車専用道路に限る」といった注意書きが付されています。
あるいは、駐車場などで車外からスマホを使いリモコンで駐車する際、操作可能範囲を6m以内と規定しています。これでは米国でTeslaが提供している85mまでOKなエンハンストスマートサモンは実現できません。
このフォーラムは日本も積極的に参加し、共同議長・副議長等を務め主導的な役割を果たすなど、基準の策定に貢献しています。それだけに基準から逸脱した自動運転の技術や仕様については、認可に対し後ろ向きになる可能性は否定できません。
余談ですが、欧州委員会の以下のページに規定された通りの運転支援動作を自動運転にそのまま適用したら、あまりにも慎重な運転で現実世界の道路では煽られまくるかもしれないなどと思ってしまいます。
WP29における「自動車の装置ごとの安全・環境に関する基準の国際調和及び認証の相互承認(1958年協定)」には米国や中国は未加入です。つまり、自由貿易の観点で設けられた相互認証制度は、この両国では通用しないということになります。このあたりに、FSDが欧州ではNGで、米国や中国では可能となった理由の一端があるのではないでしょうか。
特に米国では、自動運転について「道路交通に関する各種手続き、取り締まりを行うのは各州政府であり、全米でその取り扱いがバラバラでパッチワーク状態(米国運輸省長官談)となっている」と国交省の資料に記されています。
本稿を執筆したのは2月末です。その後、続々と自動運転に関するニュースが報じられています。例えば4月には「欧州でFSDが規制当局の承認待ち」という情報が飛び込んできました。Tesla Europe & Middle Eastの公式Xにおいて、オランダと思われる市街地をFull Self-Driving(Supervised)で走行している動画が投稿されています。
パーキングロットからバックで出て、路面電車のレールを横切り、歩行者、自転車、工事規制、窮屈な道でのすれ違いなどを経て、ドライバーの介入なしに運行しています。まさに、End to Endの自動運転に限りなく近い状況が見て取れます。
しかし、WP29という基準がある欧州でFSDが認可されるのでしょうか。仮に欧州でFSDが認可されると、この自動運転の分野では、日本だけが置いてきぼりにされてしまうという危機感を抱くに十分な内容です。ちなみに、9月に公表が予定されているUN Regulation No 171改訂版において、システム主導による高速道路上での運転支援が規定されるという情報もあります。
米国通商代表部は、高速道路のSA/PAに日本の充電規格であるCHAdeMOしか設置が許されていない状況を「非関税障壁」と断じました。それを受け、日本政府も精査する意向を示しています。同様に、日本における自動運転の本格運用も「ガイアツ頼み」になるかもしれません。米国通商代表部の件との関係性は分かりませんが、5月9日には、マツダが2027年から日本で販売するEVにおいてNACS(Tesla方式)規格の充電に対応すると発表しました。
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