このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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フィンランドのヘルシンキ大学などに所属する研究者らが発表した論文「Weight Loss in Midlife, Chronic Disease Incidence, and All-Cause Mortality During Extended Follow-Up」は、中年期に体重を減らし、健康的な体重を維持することがその後の人生における慢性疾患の発症リスクと死亡率にどう影響するかを調査した研究報告だ。
研究チームは、イギリスとフィンランドで実施された3つの大規模コホート研究のデータを分析した。合計2万3149人の参加者(30〜50歳代)を対象に、12〜35年にわたる長期追跡調査を行った。
参加者を中年期の体重変化に基づいて4つのグループに分類。健康体重を維持した群(BMI25未満)、過体重から健康体重に減量した群(BMI25以上から25未満への変化)、健康体重から過体重に増加した群(BMI25未満から25以上への変化)、過体重を維持した群(BMI25以上)である。
結果として、過体重から健康体重に減量した参加者は、過体重を維持した参加者と比較して、慢性疾患の発症リスクが48〜57%低下した。この効果は糖尿病を除外した場合でも持続し、心血管疾患やがん、呼吸器疾患などの発症リスクも低下していた。さらに、35年間の追跡調査では、減量群の全死亡率が19%低下することを示した。
この研究が特に興味深いのは、外科手術や薬物療法を使用した体重減少と比べ、参加者の平均的な体重減少は約6.5%と比較的控えめであったが、それでも顕著な健康効果が認められた。これは、極端な減量を必要とせずとも、持続的な体重管理が長期的な健康改善につながることを示唆している。
Source and Image Credits: Strandberg TE, Strandberg AY, Jyvakorpi S, et al. Weight Loss in Midlife, Chronic Disease Incidence, and All-Cause Mortality During Extended Follow-Up. JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2511825. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.11825
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