「本棚は人柄を表す」「読書をすれば人生が変わる」などとよくいわれる。実際、仕事で必要な知識や考え方を、読書を通して学ぶ人も多いだろう。とはいえ仕事で忙しい中では、成長や学びにつながる本を効率的に探すのは難しい。
そこで本連載では、今をときめくIT・Web関連企業の経営者の本棚や愛読書をのぞき見。現代社会で戦うIT経営者たちがどんな考え方に影響を受けているのか、ヒントを探る。今回は、日立製作所経営層の本棚や愛読書をのぞき見る。
※本文中のプロフィールは取り上げた企業が提供したもの、またはその企業公式サイトから引用したものです。
現在は事業部門で技術戦略を考える立場ですが、どちらかというと、技術を使う側である社会や人の振る舞いに興味があり、その手の本を読むことが多い気がします。イノベーションを起こす上で大事な観点である顧客が感じる価値は、顧客が住む地域の歴史や文化、宗教などと切っても切り離せないため、どのような違いがあるかを知っておきたい、というのがモチベーションになっています。
過去、研究開発部門でグローバルにいる研究者と一緒に顧客協創に取り組み、顧客協創で重要となるデザイン領域を担ったことがあり、より一層、社会や人に共感する必要性を感じるようになりました。そのようなときに読んだ「多様性の科学」(マシュー・サイド著)は、出だしから興味深い事例が並ぶ、とても印象深い本で、私自身もいろいろな人におすすめしています。「イノベーションには多様性が必要」とはよく言われますが、その重要性と効果を具体的に教えてくれます。
多様性が必要となる背景の一つとして、人は自分が知っていること以外は分からないということがあると考えています。だからこそ、自分が持っていない情報を持つ人との交流が重要になります。一方で近年のAIの進展により、情報の扱い方が劇的に変わろうとしています。最近読んだ「情報の人類史」(ユヴァル・ノア・ハラリ著)は、社会や人と情報の関わりを、人類の歴史に沿って示すだけでなく、AIがそういった関わり方にもたらす影響を啓発しており、とても読み応えのある本でした。
人はいろいろなソースから情報を入手し、自分の知識・認知の幅を広げていきます。とはいえ、技術がいかに進化しても、世の中全ての情報を知ることはできません。自分の知らない世界がこの世の中には存在する、というスタンスを常に持ちながら、これからもいろいろな情報に接し、知らない情報をどん欲に取り込んでいきたいと思っています。
京都大学大学院工学研究科修了後、日立製作所に入社。研究者として、デジタルを活用したサービス・ソリューションの研究開発に従事。2018年より欧州での、20年にはグローバル全体での顧客協創を、研究開発部門として推進。22年にコーポレート部門に移りイノベーション成長投資、特にCVCやバックキャスト型R&Dに関する投資戦略を策定。25年より現職。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR