このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ペンシルベニア大学などに所属する研究者らが発表した論文「A class of benzofuranoindoline-bearing heptacyclic fungal RiPPs with anticancer activities」は、真菌から抗がん作用を持つ新しい分子を発見し、白血病への治療法の可能性を示した研究報告だ。
1922年にツタンカーメンの墓が発見された後、発掘に関わった人々が相次いで死亡し、「ファラオの呪い」として世界的に有名になった。後の科学的研究により、この呪いの原因の一つとして、古代の墓に生息していた「アスペルギルス属真菌」による感染症の可能性が指摘されている。密閉された墓の中で何千年も生き延びた真菌が、墓の開封時に胞子を放出し、それを吸い込んだ人々に健康被害をもたらしたという説だ。
この呪いの正体と考えられてきた真菌が、医学に貢献する可能性が出てきた。問題の真菌は「アスペルギルス・フラバス」(Aspergillus flavus)と呼ばれ、世界中の土壌や干し草、穀物、腐敗した植物などに生息している。慢性的に暴露されるとアレルギーやぜんそく、副鼻腔炎、さらに深刻な肺疾患を引き起こすことがある。
研究チームはアスペルギルス属真菌を培養し、質量分析法を用いて代謝産物を網羅的に解析。結果、アスペルギルス・フラバスから「アスペリギマイシン」と名付けられた4種類の新規化合物(A〜D)を発見した。これらは「RiPPs」」(Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides)と呼ばれる特殊なペプチドで、細胞内でタンパク質を作る装置であるリボソームによって合成される。
研究チームは、発見された4種類のうち、活性のないBを化学的に改良することを試みた。その結果、「2-L6」と名付けた改良版が、臨床で承認されている白血病治療薬と同等の強力な効果を示すことが分かった。
皮肉なことに、「ファラオの呪い」の原因として恐れられた真菌が、今度は白血病患者を救う薬となるかもしれない。
Source and Image Credits: Nie, Q., Zhao, F., Yu, X. et al. A class of benzofuranoindoline-bearing heptacyclic fungal RiPPs with anticancer activities. Nat Chem Biol(2025). https://doi.org/10.1038/s41589-025-01946-9
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