このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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アルゼンチンのマル・デル・プラタ国立大学に所属する研究者らが発表した論文「The Impact of Triangular-Toothed Gears on the Functionality of the Antikythera Mechanism」は、古代ギリシャで作られた精巧なアナログ天文計算機「アンティキティラ島の機械」に関する新たな詳細が明らかになった研究報告だ。
紀元前60年ごろの沈没船から見つかったこの機構は、太陽や月の位置、暦の日付、日食や月食の予測などを表示する複雑な歯車システムを備えている。2000年以上も海中に沈んでいたため断片化しているが、その構造と機能を理解するには十分な部品が残っている。
この機構の特徴的な点は三角形の歯を持つトゲトゲの歯車を使っていることだ。先行研究では、氷河学者のアラン・ソーンダイクさんが三角形の歯による不均一な動きを分析し、天文学者のマイク・エドムズさんが製造精度の問題とその影響を調査していた。
今回の研究ではこれらの両方のモデルを統合した計算機シミュレーションを開発し、三角形の歯と製造誤差の両方を考慮した分析を行った。
シミュレーション結果によると、歯の三角形形状だけでは実は非常に小さな誤差しか生じないことが判明した。理想的な三角形歯を持つ歯車の場合、各指示器の誤差は十分に許容範囲内であり、例えば月を示す針の誤差は最大でも2.5度程度に。これは月の実際の動きの変動に比べれば十分に小さい値だ。
しかし問題は製造誤差にあった。残存するアンティキティラ機構の歯車を調査し、歯車間で起きる不機能(詰まりと外れ)を測定。研究者らはこれらの誤差を基に4つのシナリオ(ケースAからDまで)を設定し、機構の性能を予測した。
検証した結果、ケースAでは問題が発生せず、ケースBでは一部の歯車ペアで問題が生じた。ケースCとDでは頻繁に問題が起きるため、機構は実質的に使用不能となることが分かった。
この結果から2つの可能性が考えられる。一つはこの機構が実際には正常に機能しなかった可能性。もう一つは、実際の誤差がエドムズさんの測定値より小さかったことだ。2000年間の海中での腐食による歯車の変形や、当時のCTスキャン解像度の限界などを考慮すると、この可能性が高いと思われる。
Source and Image Credits: Szigety, Esteban Guillermo, and Gustavo Francisco Arenas. “The Impact of Triangular-Toothed Gears on the Functionality of the Antikythera Mechanism.”
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