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“サブスク疲れ”の救世主?――アメリカで急成長する動画配信サービス「FAST」とは何か小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)

» 2025年08月05日 17時30分 公開
[小寺信良ITmedia]
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日本で注目されるFASTのビジネスモデル

 こうしたFASTを、日本でもやったらどうか。特にテレビ離れが進んで困っている地方局には、救世主となり得るのではないか。そうした議論が数年前から始まっている。

 確かにローカル番組やローカルニュースといったコンテンツが、テレビ放送以外のルートで配信でき、そこの広告枠が売れるのならば、魅力的な話ではある。だが米国のように、複数の歯車を噛み合わせなければならない。

 米国でFASTがウケた理由の一つと違い、そもそも日本での主力はアンテナ経由の直接受信であり、テレビ放送を見る手段がなくなったわけではない。インフラの都合でテレビが見られなくなったわけではないのだ。まずここで歯車が一つ欠落する。

 テレビ離れについては様々な論が存在するが、米国とのテレビ放送の大きな違いは、メインの地上波放送が、NHK教育を除いてすべて総合チャンネルであるということが大きい。つまり1つのチャンネルが子供番組からお笑い、ニュース、歌番組、ドラマなど様々なコンテンツを、時系列に沿って放送している。

 昭和時代のように、みんながみんな同じ時間に働いて同じ時間に家に帰り、風呂入ってメシ食ってる時代は、こうした総合テレビの時間編成がぴったりハマった。だが現代は様々なタイムラインで生きている人が大勢おり、標準的な時間編成にはまらない。

 「テレビは嫌いじゃないが見るべきものがない」と考える人が多いのは、自分のタイムラインとテレビ編成がズレているからだろう。見逃し配信のTVerがウケているのも、そのあたりに理由がある。ここで、2つ目の歯車が欠落する。

 もう一つの課題は、テレビ局の権利の持ち方が、米国とは違うということである。米国のFASTでは、コンテンツは新たに作る必要がなかったというところも大きなポイントだった。

 一方日本の放送局は、自分の都合だけでネットに出せる番組をほとんど持っていない。番組をネットに流すようになって以降、新たに作る番組では権利関係はかなり整理されたが、それでも放映権はテレビ局と制作会社の折半といった形になっている。古い番組ほど権利許諾の取りようがなくなって、塩漬け状態だ。テレビ局の独断で配信に出せるのは、ニュース番組ぐらいだろう。ここで3つ目の歯車が欠落する。

 実は日本でも昨年8月にFAST方式のサービスが始まっている。「FASTch」というのがそれだ。ただ現状はテレビ番組の再送信ではなく、日本のコンテンツはYouTubeの再送信がかなり多い印象だ。一方時代劇や韓流チャンネルはテレビコンテンツになっており、これは放送系のチャンネルがそのまま乗り入れているのだろう。

 ただYouTubeでも見られるコンテンツを、5分ごとにCMを見させられて視聴するのは割に合わないと感じる人もいるのではないだろうか。「広告が美味しい」というたった1つの歯車で回そうとしているように感じられる。

 日本でも米国のようにFASTが流行ると見ている業界人もいるようだが、米国で普及した事情を見ると、日本では新しい視聴体験として、視聴者に対する別の仕掛けが必要になる。流行らすには、もっと多くの歯車を見つけなければならない。

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