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記録的猛暑なのに、「節電要請」が発令されないワケ小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2025年08月15日 11時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 この夏、日本列島では観測記録を塗り替える猛暑日が頻発している。気象庁の歴代全国ランキングによれば、観測史上最高気温の1位から5位までが今年塗り替えられるという異常事態だ。上位22までの間に、今年の新記録が8つも入っている。

 各自治体でも熱中症対策を呼びかけており、熱中症特別警戒アラート発表時には、指定暑熱避難施設「クーリングシェルター」を利用するよう呼びかけている。クーリングシェルターは、公共施設や大規模商業施設を、誰でも一時的に滞在できる休憩所として指定するという制度だ。今年はイオンモールが全国120か所でクーリングシェルターとして指定され、日本最大級の指定暑熱避難施設となっている。

 電気代高騰もあってか、「昔はエアコンなどなかった」としてエアコンを我慢する高齢者も多いが、実は「昔は今ほど暑くなかった」のである。熱中症で救急搬送される前に、クーリングシェルターを利用すべきだ。

 夏の電力需要ひっ迫は、最近ではもっぱら夏の風物詩と化しているが、事の発端は2011年の東日本大震災である。これをきっかけに多くの原子力発電所が運転を停止したことでベース電力が足りず、ほぼ毎年のように節電要請が発令されるようになった。

 だが24年から今年にかけては、節電要請ではなく「省エネ・節電協力の呼びかけ」へと軟化している。電力需要が減っているわけではないと思われるが、なぜ節電要請が出なくなったのだろうか。

どうやって電力を確保しているのか

 NHKが報じたところによれば、経済産業省では5月23日に、今年も節電要請はしないという方針が示された。「すべての地域で安定供給に最低限必要な3%以上の『予備率』を確保できる見通しとなった」からという。

 経済産業省「第1回 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」に提出された資源エネルギー庁の資料「2025年度夏季の電力需給対策について」によれば、すでに5月の段階でこの夏は記録的猛暑となることを予測し、電力需要と供給バランスを検討した結果が示されている。

 今年夏の予備率予測をみると、昨年よりは若干下がっているものの、中部以北の北陸を除く電力エリアでも7.6%となっており、3%を上回ると見込まれている。一方四国・沖縄は、かなり余力がある。

2025年度の電力需給の見通し(夏季)(画像:資源エネルギー庁公開資料「2025年度夏季の電力需給対策について」)

 各エリアにおける需要と供給の変化を24年と比較した資料によれば、7月には中部と関西の供給量の落ち込みが激しい。

2024年度と2025年度の供給力・需要の比較(画像:資源エネルギー庁公開資料「2025年度夏季の電力需給対策について」)

 その原因としては、中部では碧南と知多第二の火力発電所と、関西では大河内の揚水発電所が停止することが大きい。特に中部の2カ所はそれぞれ出力が94万kW、83万kWと、原発に匹敵する大型火力である。

この夏に運転を停止する発電所(画像:資源エネルギー庁公開資料「2025年度夏季の電力需給対策について」)

 朗報としては、関西エリアにおいて姫路天然ガス火力発電所が、1号機が8月に試運転開始、来年1月に営業運転開始予定となっている。2号機も今年11月に試運転開始、来年3月に営業運転開始予定だ。それぞれ62万kWクラスなので、合計124万kWはかなり大きい。来年の夏にはかなり万全の体制になりそうだ。

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