もう1つ重要な施策として、「DR(デマンド・レスポンス)」がある。DRとは、需要過多の場合には需要を減らし、供給過多の場合には需要を増やすというコントロールを、消費者側でおこなっていくという考え方だ。
方法としては2つある。1つは、需要過多の時には電気料金を上げ、供給過多の時には電気料金を下げることで、消費者側で調整してもらう方法だ。
以前は深夜料金という制度があり、深夜の電力は割引だったものだが、昨今は深夜でも電力需要が大きく下がらなくなってきたため、新規加入を停止しているところも多い。一方で電気小売事業者は、時間帯や天候に応じて電気料金を変動させる事業者が増えている。
もう1つは、電力会社側からの要請に応じて、電力使用を抑えたり増やしたりすることで、何らかの対価を得るという方法だ。基本的にDRは、電気を大量に使う工場や大型商業施設などを対象としている。24年4月の改正省エネ法によって、大規模需要家に対しては、DRを実施したかについて定期報告することが義務化された。
需要を減らす「下げDR」は、基本的には節電するということになるが、昨今では自家発電装置を稼働させることで系統電力側の使用量を減らしつつ、使用電力は一定に保つという方法論を取る事業体も多い。しかし多くは火力発電なので、燃料費の高騰により経済的なメリットは出づらくなっている。
また電力をより消費する「上げDR」は、そもそも対応が難しい。急に電気を使えと言われても、事業体で使用する電力はだいたい毎日一定だからだ。操業時間をずらして対応するなどの方法も考えられるが、従業員のシフト変更など、急に対応できない要素が多い。
そこで比較的簡単に対応できる、世帯ベースのDRに注目が集まっている。筆者の済む九州電力管内では、需要過多となる夏場は指定された時間に電力を節約する「節電チャレンジ」、電力が余る春秋は電力を余分に使う「使っチャレ」を実施している。制御した電力量に応じて、PayPayポイントがもらえる仕組みだ。
九州電力では、23年に太陽光発電の受け入れを一時的に停止する「出力制御」が過去最大となり、批判が殺到した。そこで取り入れられたのが、これらの「エコチャレンジ」という仕組みだ。各家庭の電力需要をリアルタイムで把握しなければならないため、スマートメーターが取り付けられた家庭しか参加できないが、筆者宅にはソーラーパネルもポータブルバッテリーもあるので、DRに対応できる。ポータブルバッテリーは、スマホアプリと連携して屋外からでも充放電が制御できるものが出てきており、在宅勤務でなくても対応できる。
各家庭のDRは規模は小さいが、数がまとまればそれなりに大規模需要家に匹敵するDRが可能だ。米カリフォルニア州ではすでに住宅用バッテリーが総エネルギー貯蔵設備の10%を占める。
東日本大震災の原発事故から10数年、日本は電力調達に苦労してきた。だが太陽光発電がそれなりに戦力になってきたことや系統連携の本格化により、ようやくこの2年ぐらいで凌げるようになってきた、ということである。苦労してこれを実現した関係各所の人たちの努力には、頭が下がる。
その一方で現在も火力は燃料費高騰により、苦しい状況が続いている。そのツケを、国民が電気代高騰という形で払っているに過ぎない。仕組みの改善や技術革新ではなく、人間に負荷をかけることで乗り切るという方法論は、バブル崩壊以降日本が歩んできた、修羅の道でもある。
このままずっと行けば、先に倒れるのは国民、というシナリオはあり得る。厳しい話だが、この点は頭の隅に置いて置くべきだろう。
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