このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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ブラジルのリオグランデ・ド・スル大学と英ポーツマス大学に所属する研究者らが発表した論文「Unveiling a 36 billion solar mass black hole at the centre of the Cosmic Horseshoe gravitational lens」は、「コズミック・ホースシュー」(Cosmic Horseshoe)と呼ばれる銀河の中に、太陽の360億倍もの質量を持つ途方もなく巨大なブラックホールを発見した研究報告だ。
コズミック・ホースシューは地球から約50億光年離れた場所にある巨大な銀河。この銀河の特徴は、その強大な重力が背後にある遠い銀河の光を曲げて、馬蹄形の美しいリングを作り出していることだ。これを重力レンズ効果という。
研究チームは、この銀河の中心近くに現れる特殊な像「Radial arc」に着目した。背景の銀河からの光が、ちょうど中心部を通過する際に作られる像は、銀河中心の質量分布に極めて敏感に反応する。この像を詳しく調べることで、中心にあるブラックホールの質量を正確に測定できる可能性がある。
測定にはヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡のデータが使われた。研究チームは重力レンズ効果による光の曲がり方と、銀河内の星の動きの速さを同時に分析。星の動きが速ければ速いほど、それを引き留めている重力、つまり中心のブラックホールの質量が大きいことを意味する。
結果、このブラックホールの質量は太陽の約360億倍と判明した。しかも、このブラックホールは母銀河の大きさから予想される質量よりもかなり重いことが分かった。通常、ブラックホールと母銀河は一緒に成長すると考えられている。銀河が大きければブラックホールも大きく、両者の間には一定の関係がある。しかし宇宙の馬蹄のブラックホールは、この関係から外れて異常に重い。
論文では「ここで報告された超巨大ブラックホールは、これまでに検出された中でも最も質量の大きな超巨大ブラックホールの一つである」と述べている。過去に同等の超巨大ブラックホール「Holm 15A」や「NGC 4889」が発見されているが、どちらも近くの銀河団で発見されている。一方、今回の超巨大ブラックホールは赤方偏移0.44という遠方で観測された。
Source and Image Credits: Carlos R Melo-Carneiro, Thomas E Collett, Lindsay J Oldham, Wolfgang Enzi, Cristina Furlanetto, Ana L Chies-Santos, Tian Li, Unveiling a 36 billion solar mass black hole at the centre of the Cosmic Horseshoe gravitational lens, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 541, Issue 4, August 2025, Pages 2853-2871, https://doi.org/10.1093/mnras/staf1036
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