8月28日に発売された今年の「Google Pixel 10」シリーズのうち、10 Proおよび10 Pro XLには、「超解像ズームPro」という新機能が搭載された。
これは、最大100倍に拡大された写真に対してAIが補完処理を行い、より精密な画像を生成する仕組みだ。Proシリーズの望遠カメラは、メインカメラを1倍とした時に光学5倍という関係になる。100倍にするということは、光学5倍×デジタル20倍ということである。さすがに20倍も拡大してしまうと、画像がボケボケになってしまうが、それをAI処理によってしゃっきりさせますよ、というわけだ。
発売日以降、この「超解像ズームPro」を使った多くの写真がネットにアップされているが、「これは写真ではないのではないか」といった感想が目立つ。ボケている部分がどうなっているのかはAIが想像して補完するわけだが、そこには生成AI技術が投入される。単にノイズを減らしてS/Nを上げるだけでなく、ぼんやりとしか見えない被写体を、いかにも本物っぽくAIが書き込む。
もちろんそれが正しい場合もあるが、間違っている場合もある。いや、もともとなんだったのかが確認できない場合、正しいのか間違っているのかもわからない。光学的に光と影をそのまま写し取るのが写真であるという概念が、曖昧なものになる。つまりそれでは写真とは言えないのではないか、というわけだ。
とはいえ、だ。2021年に当時の最新モデルであったPixel 6に導入され、2023年には全Pixelに開放された「消しゴムマジック」は多くの人に歓迎された。これも同じくカメラで撮影した画像をベースにした、AI画像処理である。
これは、2021年あるいは2023年当時とは、生成AIに対する懸念や理解度が深まったというだけの話ではないように思える。「あるものをなくすこと」である「消しゴムマジック」は受け入れられるのに、「見えづらいものを想像して描くこと」である「超解像ズームPro」には、なぜ抵抗を感じるのだろうか。
以前、某カメラメーカーの技術者にインタビューした時に、カメラの高倍率ズームの良さとは何かという話になった。その時に「自分では近づいていけないような遠いところにあるものを、手前に引き寄せて見ることができる。それが望遠の醍醐味なのではないか」といったことをおっしゃっていた。
この考えは、今でも通用する。月の表面や海に浮かぶ船は、トコトコ歩いていって近くで見ることはできない。だが望遠レンズがあれば、今いる場所から、本来なら肉眼では見ることが叶わなかったものを見ることができる。そして、そうかそうなってたのか、という発見や感動がある。望遠の本質は、「見られなかったものが見えること」に尽きる。
Pixel 10 Proシリーズにおいて、100倍ズームした焦点距離はどれぐらいなのか。スペック表によれば、広角(メイン)カメラの画角が82度とあるので、35mm換算ではおよそ24mm程度の焦点距離である。
「超解像ズームPro」の最大値100倍は、24mmを100倍するということなので、35mm換算で2400mm程度の焦点距離ということになる。
デジタル一眼で2400mmのレンズといったら、いわゆる「大砲レンズ」と言われる種類のものになる。おじさんがバードウォッチングとかにつかうヤツであり、三脚なしには撮影できない。
実際に10 Pro XLで2400mm撮影してみたが、スマホを毎回三脚に乗せるということは実用上考えられないので、手持ちである。しかしそれでは手ブレが起こりやすい。手ブレ補正を入れると、今度は補正が効きすぎてなかなか狙ったアングルにならない。スマホを微妙に動かして画角を調整しようとしても、手ブレ補正が元の位置を保持しようとするので、微妙な調整ができないのだ。
ズーム時に左上に表示されるガイド画面には、ズームしているポイントが黄色い枠で表示される。その枠を指でドラッグすれば狙った画角に調整できるのだが、今度はその指先が邪魔で黄色い枠が見えないというアホなことになってしまう。正直、スマホで2400mmもの望遠撮影は、なかなか狙った画角に寄せられず、結構大変である。
実際に100倍で撮影し、「超解像ズームPro」で補正された画像が以下である。髪の表現や服のプリント、木の幹の表面のディテールなど、普通に光学ズームで撮影したものと言われても、あまり違和感はない。
補正する前の画像がこれである。このぼんやりした画像が上のように化けるのであれば、なかなか効果は高い。服のプリント柄が正確ではなくても、このケースではそれほど大きな問題ではない。
これがどれぐらい遠いかというと、メインカメラの1倍で撮影したのがこの画像である。もはや被写体がどこにいるのかもわからない。向こうからは、こちらから狙われていることにも気がつけない距離である。高倍率での撮影は、こうしたプライバシーの問題も引き起こす。
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