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恐るべき新製品ラッシュ ニコンにキヤノンにAppleまで? 「シネマカメラ」に熱視線のワケ小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2025年09月17日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 例年秋は新製品ラッシュの時期で、主に新製品レビューを生業とする者にとってはもう9月・10月のスケジュールが入りきれないぐらいの状態になっている。特に2025年は映像関係での新製品が多く、カメラとその周辺機器はもちろん、それに対応して編集ツールのアップデートも行われるなど、がぜん慌ただしくなっている。

 特にシネマカメラは高額商品なので、それほど頻繁に新製品が出るわけではないが、なぜか今年は各メーカーから集中して発売が予定されている。ここではなぜ今シネマカメラがこんなに注目されるのか、そして今後何が起こるのかという点について考察してみたい。

恐るべき9月の製品ラッシュ

 発表順でいけば、9月9日発表のキヤノン「CinemaEOS C50」がある。

キヤノン 「CinemaEOS C50」

 CinemaEOS Systemは2011年、当時新しい表現手法として好評だった「EOS 5D MarkII」のフルセンサー表現を、シネマカメラ専用機として使えるようにするというコンセプトで登場した。

 当時はソニーが「CineAlta」シリーズでデジタルシネマ撮影をけん引したが、これは「α」系列ではなくプロ用カムコーダーの延長線上にある。CinemaEOS Systemは、EOSの写真機としての延長線上に動画を持ってくるという、キヤノンなりの回答であった。当然、ハリウッド狙いである。

 ただその後はハイエンドだけでなく、いわゆるデジタル一眼スタイルの小型機も投入し、裾野を下の方へ広げていった。C3桁はボックスカメラ、C2桁は一眼スタイルである。C50は一眼スタイルとしてはもっとも小型で、機動力重視のカメラとなる。

 最高画質記録フォーマットとしては、同社独自の「Cinema RAW Light」を採用。Logとしては「Canon Log 2」「Canon Log 3」、ガンマは「Cinema Gamut」「BT.2020 Gamut」に対応する。機能的には、これまでの路線から外れず、コンパクトにまとめたという方向だ。なお今回はシネマの話なので、BT.709系のスペックは割愛する。

 9月10日には、ニコンが「ZR」を発表した。これまでニコンのミラーレスはZ+数字であったが、ZRのRは「RED」の意味である。

ニコン「ZR」

 カメラに詳しい方はご承知と思うが、ニコンは2024年にデジタルシネマカメラメーカーのREDを傘下に収め、REDからはZマウントのシネマカメラがリリースされるなど、協業が進んできた。一方でニコンサイドからRED系のカメラはいつ出るのか、と期待されてきたところだが、その第1段がZRということになる。

 ニコンはZシリーズ以降、動画撮影機能を強化してきたが、それはあくまでもデジタルカメラの機能の一部として、である。一方ZRはニコンとして初めてシネマカメラをうたう製品となる。

 記録系はニコン用に開発されたREDの「R3D NE」か、ニコン独自の「N-RAW」の内部収録に対応した。これまで同様、「Apple ProRes RAW HQ」にも対応する。ProRes RAW HQは、ProRes RAWの一段上のフォーマットだ。最高12bit 6K 59.94p または 4K 119.88pで記録する。またREDと同じカラースペース「REDWideGamutRGB」とガンマカーブ「Log3G10」を採用した。

 ターゲットは、本格シネマ体験とうたうように、「Web広告、SNS動画、インディーズ映画、動画のストリーミング配信」としている。つまりハリウッドに代表されるデジタルシネマそのものではなく、ネット系動画でもなんちゃってシネマではなく、本格的なシネマの作風でやってみたい人たちへフォーカスしたカメラということだ。

 9月11日には、富士フイルムがこちらも同社初となるラージフォーマットの動画専用機「FUJIFILM GFX ETERNA 55」を発表した。35mm判の約1.7倍となる対角約55mm、横43.8mm×縦32.9mmのセンサーサイズを採用したカメラで、独自のGマウントほか、PLマウントアダプターも付属する。最大でGF Opengate、最小でSuper35mm DCIまで、柔軟な撮影が可能になる。

FUJIFILM「GFX ETERNA 55」

 記録フォーマットとしては、「Apple ProRes」を採用した。最高画質が「Apple ProRes 422 HQ」で、Apple ProRes RAWには対応しないようだ。ダイナミックレンジと色域は、独自開発「F-Log2C/F-Gamut C」を採用。

 面白いのは、フィルムメーカーの強みを生かし、全10タイプのフィルムシミュレーションLUTを内蔵することだ。撮影現場でフィニッシュに近い映像をモニターしていこうというニーズは高く、以前から同社はオンセットでのモニター用LUTボックスを作ってきた。この経験から、そうした機能をカメラ内に積んできた。

 ターゲットとしては、長編映画から、柔軟なフレーム設計が求められるCM、ハイスピードを生かしたアート作品としている。本機が本格的なラージシネマカメラとしてのデビュー戦となる。

 つまり9月9日から11日まで、3日連続でシネマカメラが発表されたことになる。また中国DJIが9月15日にLマウントのシネマカメラを出すのではないかといううわさもあった。DJIはすでに2021年、「Ronin 4D」というジンバル機構付きシネマカメラを出していることから、手持ちのフルサイズシネマカメラもあったらいいなという話ではある。

 だがデジタル一眼スタイルは競合メーカーが多く、特にDJIの強みが生かせる分野というわけではない。ただでさえDJIは製品ジャンルが広すぎてわけが分からなくなりつつあるところに、わざわざ他社競合してくるとは思えないのだが、どうだろうか。

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