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“引っ張ると縮む”新機構「カウンタースナッピング」とは? オランダの研究者らが発表Innovative Tech

» 2025年09月22日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

X: @shiropen2

 オランダのAMOLF研究所とナノリソグラフィー先端研究センター(ARCNL)などに所属する研究者らが発表した論文「Exotic mechanical properties enabled by countersnapping instabilities」は、従来の物理的直感に反する「引っ張ると縮む」という機構を提案した研究報告だ。

引っ張ると縮む機械構造

 「カウンタースナッピング」と呼ばれるこの機構は、5つのバネ要素を接続した構造である。上下の固定点の間に、軟化バネ2本と硬化バネ2本が対称に配置され、これらに非単調バネ1本が真ん中に連結している。

軟化バネ(J)、硬化バネ(K)、非単調バネ(L)を組み合わせてカウンタースナッピング機構(M)を作る

 軟化バネは引っ張るほど柔らかくなり、硬化バネは引っ張るほど硬くなる。非単調バネは、変形の途中で一度力が弱まってから再び強くなる特性を持つ。異なる特性の3種類のバネの組み合わせが、全体として「引っ張ると縮む」という逆説的な挙動を生み出す。引っ張っている途中で臨界点に達すると、構造内部の力の流れが「パチン」と直列から並列に切り替わり、この瞬間に全体が収縮する。

 このカウンタースナッピング構造を直列に複数つなげると、一つが変形すると連鎖反応で全体が一気に変形する現象が起きる。並列につなげた場合は、それぞれを個別に制御して、全体の硬さを段階的に変えることができる。

 実際の試作品はシリコーンゴムで製作され、全体のサイズは数cm程度である。実験では、構造をゆっくり引っ張っていくと、ある臨界点で全体が急激に約12%収縮する様子を確認。また、水を入れたカップを吊り下げて徐々に重量を増やしていく実験では、一定の重さに達した瞬間にカップが突然上方へ跳ね上がるという劇的な現象を観察できた。

水を徐々に注いで荷重を増やす実験装置

 この技術の応用可能性として、例えば振動を避ける仕組みとして使える。建物や機械は特定の振動数で大きく揺れる共振という現象を起こすが、この構造は振動が大きくなると自動的に硬さを変えて共振を避けることができる。

 もう一つの応用は、一方向にだけ物を動かす仕組みだ。普通のバネを伸び縮みさせると、物は前後に動くだけで元の位置に戻ってしまう。しかしカウンタースナッピング構造では、伸ばしても縮めても同じ方向に動くため、繰り返し動かすことで物を一方向に運ぶことができる。

Source and Image Credits: P. Ducarme,B. Weber,M. van Hecke, & J.T.B. Overvelde, Exotic mechanical properties enabled by countersnapping instabilities, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 122(16)e2423301122, https://doi.org/10.1073/pnas.2423301122(2025).



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