このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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ポーランドのヴロツワフ大学と英スターリング大学に所属する研究者らが3月に発表した論文「Nudity Norms and Breast Arousal: A Cross-Generational Study in Papua」は、女性の胸部に対する男性の性的関心について調査した研究報告だ。
研究チームはパプア(インドネシア)のダニ族の男性80人を対象に調査を実施した。ダニ族の社会では、約40年前から女性が公の場で胸部を覆うようになるという文化的変化が起きている。かつては女性の上半身露出が一般的だったが、現在ではほぼ全ての女性が胸部を布で覆っている。
研究者らは参加者を2つの年齢グループに分けて比較した。40〜70歳の年配グループは、女性が日常的に上半身を露出していた時代に育った世代な一方、17〜32歳の若いグループは、女性が胸部を覆うことが規範となった時代に成長した世代だ。両グループに対し、裸の女性の胸部を見たときの性的興奮の程度、性交時にパートナーの胸部に触れる頻度、パートナーの魅力を判断する上での胸部の重要性について質問した。
結果は、両グループ間でこれら全ての項目において統計的に有意な差は認められなかった。女性の胸部露出が日常的だった環境で育った男性も、胸部が覆われることが当然とされる環境で育った男性も、同様に胸部に対して性的関心を示した。両グループとも、性交時に頻繁にパートナーの胸部に触れ、裸の胸部を見ると比較的高いレベルの性的興奮を感じると回答した。
この結果は「隠されているものほど欲望をかき立てる」という一般的な見解に疑問を投げかける。西洋社会では、女性の胸部が性的対象として扱われるのは、それを覆い隠す文化的規範があるからだという主張がしばしばなされる。しかし、ダニ族の研究結果は、胸部への露出頻度に関わらず、男性の性的関心が維持されることを示唆している。
研究者らは、この発見が女性の胸部に対する男性の性的関心が文化的産物というよりも、進化的・生物学的基盤を持つ本能の可能性を示していると解釈している。
Stefanczyk, M.M., Sorokowski, P., Roberts, S.C. et al. Nudity Norms and Breast Arousal: A Cross-Generational Study in Papua. Arch Sex Behav 54, 1317?1323(2025). https://doi.org/10.1007/s10508-025-03122-5
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