このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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当時東北大学に所属していた五十嵐彰さん(現:大阪大学 人間科学研究科 准教授)が2018年に発表した論文「誰が「不倫」をするのか」は、日本社会において配偶者以外との性的関係、いわゆる不倫は誰が行うのかを分析した研究報告だ。
毎年のようにメディアは著名人の不倫を報道し、世間の関心も尽きることがない。しかし不倫は決して著名人の世界だけの出来事ではない。09年に行ったプレジデント紙の調査や13年のサガミの調査によると、日本人男性の約25〜35%、女性の6〜14%が不倫経験を持つという。これは米国と比較しても決して低い数値ではない。
従来、日本の家族社会学では、夫婦間の情緒的な結び付きや親密さが不倫を防ぐと考えられてきた。近代家族の理想として、配偶者への恋愛感情を維持し、それが性的排他性を保証するという見方だ。しかし、770人の既婚者を対象とした実証研究の結果は、この通説に疑問を投げかけるものとなった。
分析結果で最も注目すべきは、夫婦間の会話頻度やセックスの頻度、子どもの数といった夫婦関係の親密さを示す要因が、不倫行動にほとんど影響を与えていなかったことだ。労働時間の長さも、米国の研究とは異なり、日本では不倫と関連がなかった。
男女ともに明確な効果を示したのは学歴だ。高学歴になればなるほど不倫をしなくなる傾向が確認された。これは社会的地位による評判への配慮というより、教育を通じて形成される価値観や規範意識の影響と考えられる。
男性特有の傾向として、収入が二面的な効果を持つことが判明した。収入が高い男性ほど不倫しやすくなる一方、妻より収入が低い男性もまた不倫しやすくなる。前者は不倫関係を維持する経済的余裕や、高収入がもたらす魅力として説明できる。後者については、男性としてのアイデンティティーが脅かされた際に、それを回復するため不倫という「男性性」を表出できる行動に走るという解釈が示されている。
女性の不倫を規定する要因として唯一明確なのは学歴だ。高学歴の女性ほど不倫をしない傾向が強く、大学卒業者は高校卒業者より有意に不倫確率が低い。一方、男性の不倫に強く影響する収入は、女性には全く効果を示さない。収入の高低や配偶者との収入差も女性の不倫行動に影響しない。
この研究は2023年に新しいデータをもとに「不倫―実証分析が示す全貌」というタイトルで書籍化もしている。
Source: 五十嵐 彰, 誰が「不倫」をするのか, 家族社会学研究, 2018, 30 巻, 2 号, p. 185-196
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