ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

日本にも「自動運転」がやってくる 先行する海外メーカー、国内勢は“いつか来た道”を回避できるのか走るガジェット「Tesla」に乗ってます(2/3 ページ)

» 2025年11月16日 12時30分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

銀座の雑多な裏通りで自動運転レベル2

 Tesla JapanのFSD動画公開から約1カ月後、日産も次世代プロパイロットを搭載した「アリア」による自動運転レベル2の走行動画を公開しました。こちらは、公式動画だけでなく、自動車系のユーチューバーも同乗動画を公開しているので、たくさんの情報に接することができます。

 東京・芝公園のホテルを出発し日比谷通りや銀座をハンズオフで走行する様子を見ることができます。車線変更、歩行者や対向車など周囲の状況を考慮した右左折をスムーズにこなし、車線変更で割り込んでくる他車に進路を譲ります。銀座の雑多な裏通りも問題なく走行します。

銀座の裏通りを安全かつ慎重に走行する日産アリア。1台のカメラ、5台のミリ波レーダー、1台のLiDARで周囲を監視

 クスッと笑ったのは、右折のシーンでアリアの後ろに付いた営業系のハイエースがイラッとした印象の挙動を示している点です(下記動画の3分30秒付近)。アリアは、対向車が来ずとも、横断歩道を渡る(かもしれない)歩行者の存在を先読みして進まなかったのかもしれませんが、後ろのハイエースのドライバーは、「さっさと行け!」といった気持ちだったのかもしれません。

次世代プロパイロットのデモ走行

 Teslaの動画にも共通して言えることですが、自動運転というのは、人間のように突発的な感情に支配されず、常に沈着冷静でロジカルな思考をしつつ、ルールやマナー順守で慎重に運転している、そんな印象を持ちました。

 AIによるEnd-to-Endで模範的なドライバーの運転を学習させた結果なので当然といえば当然なのでしょう。あおり運転など間違ってもしないでしょう。ただし、慎重かつ順法運転なので、逆にあおり運転を受けるリスクが高まる可能性も否定できません。

 以前筆者は、本連載でTeslaからの警告 ルールと実態の乖離問題をどう解決するのかという記事において、オートパイロットを使用して交通法規に従って走った際の後続車両からのプレッシャーについてレポートしました。

 日本においてFSD (Supervised)が実装された場合、品行方正にルール通りに走行しているクルマがあり、よく見るとTeslaだった、といったことが現実のものになるのかもしれません。ただ、最新FSDに実装された「マッドマックスモード」は、悪い冗談でちょっといただけません。

センサー類が多い方が「監視の目」が行き届くのか?

 FSD (Supervised)は、Teslaが自社で開発している自動運転システムです。一方、次世代プロパイロットは、英Wayve Technologies(以下、Wayve)が開発する「Wayve AI Driver」を搭載しています。Wayveは、ルールベースではなくEnd-to-Endな開発を行っています。また、両社には車両に搭載されたセンサーにも差異があります。

 TeslaのFSD (Supervised)は、7〜8台のカメラ画像だけで周囲の状況を認識して運転しますが、今回の次世代プロパイロットを搭載したアリアには、11台のカメラに加え、5台のミリ波レーダー、1台のLiDARと、各種センサーがてんこ盛り状態です。

開発試作車とはいえ、カメラやセンサー類を後付けしたことで、アリアの流麗で美しいデザインが台無しになっている
ルーフに後付けされたカメラやLiDARのユニット。空気抵抗が悪化しそう。さすがに一般市販する際は、もっとスマートでデザインコンシャスな外観になるだろう

 Teslaは、現在販売されている車両にハードウェアの追加なしに、FSD (Supervised)を実装可能として、カメラだけのシステム「Tesla Vision」を採用しています。これにより、車両価格の上昇なしに、ソフトウェアのオプション料金(8000ドル)だけでFSD (Supervised)を実現することができます。

 一方、日産の次世代プロパイロットを車両に実装するためには、カメラ、LiDAR、レーダーの追加が装備が必要です(現状のアリアは、カメラ5台、ミリ波レーダー5台、超音波センサー12台)。ハードウェアの追加に加え特別なソフトウェアを実装するわけですから一般市販する際には、車両価格がそれなりに上昇すると思われます。

 前述した通り、Teslaの場合、納車後であってもオプション料金を支払えば、ソフトウェアアップデートでFSD (Supervised)を実装することができますが、次世代プロパイロットの場合は、購入後の後付けが難しそうです。新車購入時のメーカーオプションという範ちゅうに入るのかもしれません。ちなみに、TeslaのFSD (Supervised)には、月額99ドルのサブスクも用意されています。

LiDARを追加すると車両価格が上昇する?

 ここで考慮しなければならないのは、次世代プロパイロットを実現する技術「Wayve AI Driver」は、カメラ映像だけの自動運転を主眼に置いている点です。Forbes Japanの記事によると、Wayveは、LiDAR不要を宣言した企業とのことです。Wayveのサイトにもそのような記載があります。にもかかわらず、日産はなぜLiDARを搭載したのでしょうか。ちなみに、Wayveのサイトには、車両メーカーが要望すればLiDAR類の搭載にも対応可能といった文言も書かれています。

 LiDARなしでの自動運転実現可能を宣言した企業のシステムを導入するにあたり、日産がLiDARという高価な仕組みを搭載することの意味はどこにあるのでしょうか。YouTubeに投稿された動画の中で日産の開発者は「カメラは近くを、LiDARは遠くを監視」といった説明をしています。LiDARの採用は、より確実性を求める日本企業の姿勢や考え方にその根源があるのかもしれません。あるいは、日本政府の方針なのでしょうか。

カメラ方式を搭載したWayveの開発車両。米FordのMustang Mach-E

 ただ、先述のように、LiDARを追加すると車両価格が上昇する可能性があります。そうなると、購入するユーザーが限定されてしまうのでは、という危惧を感じます。安全な運行に寄与するこのような仕組みはより多くの人が利用してナンボ、普及してナンボです。

 近年ではLiDARも低価格化してきたようですが、低価格化したLiDARが、安心・安全志向の強い日本企業の導入要件を満たすのかどうかは「中の人」でない筆者には分かりません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR