日産の発表の後、テレ東BIZのYouTubeチャンネルで、ソフトバンクグループの孫正義氏が自動運転車に試乗する動画が公開されました。Wayveのアレックス・ケンダルCEOが運転席に座ります。こちらの動画は、Tesla Japanや日産のものよりさらに衝撃的です。
「これから東京の道では最も難しいシナリオをお見せします」と前置きした上で、おそらく新橋周辺と思われますが、飲食店が両脇に立ち並び通行人がたくさん歩く裏道をハンズオフで走行しています。日本の都市部の雑多で狭い路での自動運転など夢のまた夢と思っていただけに、周囲の状況を考慮しながらゆっくりと進む映像には驚かされました。
四方八方に通行人がいる環境においては、たくさんの「目」を持ったシステムの方が、人間のドライバーより安全なのではと思わせるに十分な内容です。ちなみに、ソフトバンクグループは、Wayveに出資しています。
ただ、孫正義氏の試乗動画を見たことで、次世代プロパイロットの日産はすごいね、さすが「技術の日産」(死語か?)と、喜んでいる場合ではないことに、はたと気づきました。日本の自動車産業は将来大丈夫なのだろうかという危惧に捕らわれたのです。
というのは、孫氏が試乗したのは、日産アリアではなく、Wayveが開発に利用している米FordのMustang Mach-Eだからです。何が言いたいのかというと、この動画により、実のところ、日産の技術がすごいのではなく、自動運転システムとしてのWayve AI Driverが優秀であることが露呈していると感じたからです。
Wayveのシステムとカメラを導入すれば、米Ford・マスタングであっても、アリアであっても、車種やメーカーに関係なく、自動運転を可能にし、クルマは単なる「ソフトウェアを動かす箱」に成り下がるのではないかということです。
実際、孫氏は、この動画の中で「十数万円のアダプターを後付けすることで実現できる」とコメントしています。さすがに十数万円は誇張しすぎでしょうが、日産と孫氏の動画を見て、自動運転時代のクルマの「価値」はソフトウェアやシステムにあって「箱」にはない、ということを示す事例だと感じたのです。
ただ、ここで日産の名誉のために付け加えると、日産はこれまでルールベースで自動運転を開発してきたという経緯があります。Wayve AI Driverの導入に舵を切ったということは、これまで開発してきたルールベースの資産を全て捨て去ったということを意味します。過去にとらわれることなく未来を向く姿勢は、AI関連の技術が光速で進化する現実を見据えた素晴らしい判断ではないでしょうか。復活して欲しいものです。
トヨタが中国で販売している人気のEV「bZ3X」には、中国の自動運転スタートアップ企業であるMomentaのシステムが搭載されています。トヨタだけでなく、日産の「N7」にもMomentaのシステムが搭載されています。両事例ともに、中国で販売するEVなので、郷に入っては郷に従えで、中国企業のシステムを搭載しなければならなかったのだとは思いますが、何か寂しものを感じます。
底力のある巨人トヨタだけに、現状のADAS(先進運転支援)を進化させ、Wayve AI DriverやFSD (Supervised)に負けないシステムを国内販売車種にも搭載してくれることを期待します。ただ、そうは言ってもソフトウェアという肝心要の部分は、全部海外企業に牛耳られ、日本のメーカーは「箱」としてのクルマを作るだけの会社に成り下がってしまう危惧は拭いきれません。
ケンダルCEOは動画の中で、日産だけでなく「日本のいくつかの大手自動車メーカーとパートナーの関係にある」といった趣旨の発言をしています。半導体、PC、蓄電池、太陽光パネルなどの敗戦事例が頭に浮かび「いつか来た道」とならないことを願うばかりです。
著者プロフィール
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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