この二つの大きなハードルを越えるために、THE PENが採用するのが、作家一人一人に最適化された「創作技術のデータベース化」というアプローチだ。
その核心は、データの管理方法にある。THE PENは、作家個人の絵柄を再現するための「著作性データセット」と、作画の基礎となる一般的な概念を学習した「産業データセット」を分離。両者の間には「データ・ウォール」と呼ばれる壁を設け、作家Aの著作性データが作家Bの作画支援に利用されたり、産業データセットと不必要に混ざったりすることがない仕組みを構築しているという。
この「著作性データセット」は、単に漫画の完成原稿を学習させるのではない。作家の「画風の傾向」「癖」「暗黙知」といった、言語化されにくい領域まで踏み込み、解釈し、構築していくプロセスだという。この、作家性の根幹に関わる言語化と解釈のプロセスにおいて、長年ビジュアルコンテンツを選び抜いてきたアマナイメージズのスタッフが持つ「審美眼」が生かされている。
具体的には、彼らがストックフォト事業で培ってきたノウハウが直結している。例えば「『もふもふして可愛いイメージをいっぱい』といった抽象的な顧客リクエストを言語解釈して、高品質なキュレーション実務に落とし込む力」や、膨大な取扱い作品の中から「最も作家らしさを体現する一枚」を選び抜いてきた「目利き」の技術だ。
これらの経験が、THE PENのデータベース構築において、「作家の“もっとこう/ちょっと違う”という改善点を丁寧に言語化する力」や、「その“作家らしさ”を体現するデータを的確に選別・共作する力」として生かされている。これはAI開発における「教師あり学習」に他ならないが、その「教師」役を担うスタッフの経験値とスキルの高さこそが、作家の個性を再現するデータベースの品質を支える鍵となっている。
ある60代のベテラン漫画家は、このアプローチを採用したTHE PENにより隔週連載約20ページの執筆時間が従来の約4分の1に短縮されたという。また別の作家は、「AIがバランス良く安定した線を出してくれる。そこから、いかに外すか、崩すか、みたいな作業で、より場面や感情にあった演出表現に力を入れられる」ようになったという。
さらに別の作家は「AIがバランスの良い絵をアシストしてくれるので、そのバランスを崩したり、キャラらしさ、愛嬌をいれる演出作業、自分らしさを追求する作業に時間を掛けられて、より自身の作画アイデンティティーが深まっている感覚」を覚えるとコメント。単なる効率化だけでなく、作家性の追求にもつながっている様子がうかがえる。
THE PENを用いた制作は、実際には以下の流れで進められる。
このフローの重要な点は、ステップ5の「仕上げ」で作家が加えた修正点がフィードバックされ、作家個人の「著作性モデル」が持続的に進化していくことだ。作家と共に成長するAIアシスタントと言う永井氏の表現は大げさなものではないことが、このワークフローからは見て取れる。
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