THE PENが構想するビジネスモデルも、従来のソフトウェア提供とは一線を画したものだ。永井氏は作家と共に作品を創り上げる「共作」のパートナーとしての関係性を目指すとしている。
「われわれが目指すのは、作家さんにとっての『オンデマンド・スタジオ』のような存在です。基本的には、作品が生み出す収益(例えば単行本の印税など)の中から、私たちの貢献分をレベニューシェアでいただく形にチャレンジしたい。作家さんへの伴走サービスとして提供する場合、先行して持ち出しで負担を強いられるモデルは避けたいのです」
そして重要な点として、THE PEN側が著作権を主張することは一切ない、という原則を掲げている。あくまで作画の支援者という立場を貫き、作品の権利は完全に作家に帰属するモデルだ。
この構想の原点は、永井氏個人の原体験にあるという。
「2020年の東京五輪の開会式が、とても悔しかったんです」と永井氏は語る。世界に誇る日本のキャラクターが、権利問題の複雑さからほとんど登場しなかった現実にIP産業の課題を痛感。そんな折、親会社であったアマナが経営再建の一環としてアマナイメージズの売却を検討していることを知る。永井氏らは当初、同社が持つクリエイターネットワークと権利ビジネスのノウハウに着目していたが、対話を重ねる中で、長年膨大なビジュアルコンテンツを選び抜いてきた人材の「審美眼」こそが、IP産業の未来を切り開く鍵であると気づいたという。
しかし、その道のりは平坦なものではなかった。共同創業者である永井氏と飯塚文貴氏を含む関係者たちは、全員が前職を辞任し背水の陣で買収プロジェクトをスタートさせている。「無職のチームが、歴史ある大企業を買収する」というスキームに、VCからは何十社と断られ、一度は決まった銀行融資が判を押す当日に白紙に戻るという危機も経験した。チームの解散も頭をよぎったが、「コンセプト自体は絶対に意味がある」という確信だけは揺るがなかったという。その情熱が実を結び、2022年、ついに買収は実現したのだった。
そんな情熱家たちによって買収されたアマナイメージズとも連携するTHE PENは、単に漫画制作を効率化するツールにとどまらない。日本のマンガ産業が抱える構造的な課題に対し、作家の個性と権利を尊重しながら技術で向き合おうとする1つの構想といえるだろう。
サービスはまだ一般公開されておらず、その実力は未知数だ。この「オーダーメイドのAI」が、多忙を極める作家たちにとって真に信頼できるパートナーとなり得るのか。そして、業界や読者にどう受け入れられていくのか。その動向は、今後のクリエイティブ産業におけるAI活用の在り方を占う上で、注目に値するだろう。
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