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生放送にも“自動化”の波 AIカメラを使った「無人スタジオ」は人手不足を解消できるか小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/2 ページ)

» 2025年12月05日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 11月19日から21日までの3日間、千葉幕張メッセにて国内最大の映像機材展、「Inter BEE 2025」が開催された。ここから数回に分けて、Inter BEEで見えてくる放送業界のトレンドについて分析していきたい。

 最初は、スタジオワークへのアプローチの変化だ。テレビ局ではキー局はもちろん、地方局においても報道から情報番組まで、スタジオからの生放送番組を抱えている。生放送には複数のカメラが必要であり、カメラマンはもちろん、スイッチャー、音声、照明、小道具、ディレクター、フロアディレクターなど多数のスタッフが同時にその場にいる必要がある。またセット替えの必要がある場合は、事前に建て込みなどの美術作業のほか、回線のリソース確保や機材チェックなどが必要になる。

 しかし地方局ではスタジオワークが可能な人材が不足しがちで、夕方の生放送の時間帯にはロケに出ているスタッフも呼び戻さざるを得ないといった状況も発生していると聞く。こうした状況を踏まえて、各メーカーはスタジオワークフローの省力化、自動化が可能なソリューションを展開し始めている。

スタジオワークの省力化ソリューション

パナソニックの提案

多くの来場者で賑わうパナソニック・コネクトブース

 パナソニックは、4Kスタジオカメラの新モデル「AK-UCX100」にて、世界初となるオートフォーカス機能を搭載した。意外に思われるかもしれないが、スタジオカメラは基本的にはマニュアルフォーカスであり、一旦ズームインしてフォーカスを合わせたのちズームバックするという操作が基本である。

世界で初めてAFを搭載したスタジオカメラAK-UCX100

 パナソニックでは、スタジオカメラにAFを入れたらどうかと放送局にヒアリングを行ったところ、意外に好評であったことから搭載となったという。スタジオワーク未経験のカメラマンでもスタジオに対応できることや、AFのON・OFFは手元のボタンで切り替えることができるため、従来のスタジオカメラマンでも一旦ズームインすることなくフォーカスを合わせられる。

 またこの兄弟機とも言えるボックスカメラ、「AK-UBX100」も同時に出展された。光学系や画像処理をAK-UCX100と共通化したカメラで、4K 12G SDI出力のほか、ST2110、NDI High Band、SRTなど多彩なIP伝送に対応する。またAFは来年春のアップデートで搭載予定となっている。

兄弟機とも言えるボックスカメラAK-UBX100

 MOVICOM社と共同開発した自動雲台も展示されており、PTZカメラとしての運用も想定されている。

 同社のPTZコントロールプラットフォーム、「Media Production Suite」上では、各種有償プラグインを導入することでスタジオワークのソリューションを提供している。

 スタジオ向け有償プラグインの一つである「Video Mixer」は、従来からブルーやグリーンバックなしで人物を切り抜いて背景合成できる機能を提供してきたが、今年6月より提供が開始されたバージョン2では、顔検出・顔認識機能が追加され、顔へのぼかしやモザイク、キャラクター入れ替えといった機能を提供する。人物のトラッキングは、顔が後ろを向いても外れることなく追従できる。

 加えて、いわゆる顔のワイプ抜きの自動追従にも対応した。従来はカメラマンとスイッチャーが連携しなければできなかった、移動する人物のワイプ抜きが、自動化されることになる。

Video Mixerで搭載されたワイプ抜きの自動追尾「AI Face Crop」

 同じく有償プラグインの「Advanced Auto Framing」は、指定した構図でPTZが自動的にフレーミングを行う機能を提供している。ワンショットだけでなくグループショットにも対応しており、リファレンスカメラを設置することで、フレーム外からの人物の登場などにも対応できる。

Advanced Auto FramingのUI画面

 1ライセンスで1台制御というパターンと、1ライセンスで3台制御というパターンがある。プラグインは最大2ライセンス同時に動かせるので、この組み合わせで最大6カメラの制御が可能になるという。

キヤノンの提案

 キヤノンは数年前から、PTZカメラを駆使したスタジオワークソリューションで、本格的に放送局のスタジオワークに入っていくという方向性を打ち出している。

ライブブロードキャスト専用コーナーを設けたキヤノンブース

 以前から展示されているマルチカメラソリューション、「マルチカメラオーケストレーション」は、また今年も進化している。これは有人カメラ1台に対して、サブカメラであるPTZカメラが自動的に振られた役割で動作するというものだ。例えばメインカメラが1人にズームインすれば、他のカメラはもう1人の人を撮ったり、全体を映したりという動きを行う。

マルチカメラオーケストレーションのコントロールパネル

 人間によるオペレーションでは、モニターやインカムによる指示で動くため、どうしても動きが一歩遅れることになる。しかしAIによるオペレーションでは指示不要で、メインカメラの動きからそれほど遅れることなく自動的に動作するので、ある意味人間よりも早い反応が期待できる。

 今年の展示のポイントは、スタジオを俯瞰で全景を撮っているPTZカメラを2台つなぎ、各カメラが映していない状況も把握できるようになったという点。例えば登壇者が1人増えたりといった状況は、それぞれのカメラが1ショットを撮っていたら把握できないが、俯瞰カメラが常に全体の状況を見ているので、各カメラにその情報を伝えて動作させる。動きもプリセットできるので、すべてを無人カメラにすることも可能。

赤で囲ったカメラが、スタジオ全体を俯瞰で見ているカメラ
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