メモリやSSD、HDDなど、PCのコア部品の値上がりが加速している。実際、この秋から値上がりはしていたのだが、年末になって値上がりが加速、「PCが値上がりする」「ゲーム機にも波及するのでは」と騒ぎが拡大している。
これはどういう現象で、いつ解消される可能性があるのか? それらを解説してみよう。
先日、米Micron Technologyがコンシューマー向けのメモリおよびストレージのブランドである「Crucial」事業を撤退、2026年2月(Micron Technologyの会計年度第2四半期末)で販売を終了する、と発表した。
このことは、多くのPCユーザーに驚きを持って迎えられた。Crucialは大手の一角であり、筆者も使っている。そんなブランドがコンシューマー市場から撤退して行くのはやはりインパクトがある。
理由として挙げられたのは「Micron Technologyとして、AIおよびデータセンター向けの事業に経営資源を集中させること」だ。
ご存じのように、現在はAI向けのデータセンター需要が拡大している。現状がAIバブルかどうかはともかくとして、IT関連投資の多くがデータセンター構築に使われており、大量のGPUとメモリ、ストレージのニーズがあるのは間違いない。だとすると、利益率が低いコンシューマー向けの製品を作り続けるより、その部材と予算をデータセンター向けに振り分けた方が、経営上はメリットが大きい。
Micronの判断は「メモリ需要拡大」の結果であり、彼らの判断が価格上昇をもたらしたわけではない点に留意が必要だ。そもそもメモリ需要が逼迫しており、その中で経営効率を上げるにはコンシューマー向けを諦める判断をした……というのが正しい。
メモリ価格は、特に自作などのPCパーツ市場で顕著だ。25年10月頃から上がり始め、大容量のものの在庫が減っていた。11月を過ぎると、パーツ価格は一気に倍以上に上がってくる。
またPCメーカーにも、早期の購入を進める動きが出ている。
レノボは顧客に向け、26年初頭の価格引き上げ予定を伝え、現在の価格での購入を確保するために「できる限り早く注文を」としている。同様にデルも、12月中旬から、メモリの高騰によって価格が最大15〜20%上昇する可能性がある、と警告している。
また国内でも、マウスコンピュータが公式Xで「悪いことは言いません、なるべくお早めの購入をオススメします!!!本当に!!」と伝えている。
少なくともBTOや企業納入に近いところでは、メモリ高騰によるPCの値上げが目前に迫っていると考えていいだろう。
一般的に、大手はメモリ調達を安定させるため、通常3カ月から半年の単位で契約している。一方で、一時的に足りない場合や少量調達の場合、市場の在庫から調達する「スポット調達」を行う。
自作用パーツなどでメモリ価格が劇的に上がっているのは、主にスポット調達の価格変化によるものだ。だが品不足が影響すると、長期調達でも「次の契約での価格」が上がる。そろそろ契約更新の時期が近いメーカーは、メモリ価格の高騰に直面し始めた……ということだと推察できる。
値上がりの理由は、前述のように、AIデータセンター向けの需要の拡大により、消費者むけ市場が割を食っているからだ。
といっても、状況は少し複雑で、コンシューマー向けのPCで使われるDDR5のメモリが単純に大量に買われているわけではない。もちろんDDR5の需要も増えているのだが、それに加え、「生産ラインが別のメモリの需要に圧迫される」という部分がある。
AIデータセンター向けのGPUでは、データ転送速度が速く、消費電力も少なく、高密度な実装が可能な積層型の「HBM」が使われる。高価なパーツだが、その分高性能であり、AI処理には圧倒的に有利だ。そのため、単価が高いHBMへのニーズが拡大している。
一方で、HBMは積層型なので、1つのDRAMチップを作るのにより多くの半導体を必要とする。HBMの生産にラインと資源を振り分けると、その分DDR5の生産量が減るのだ。
同様に、ゲーム機やコンシューマー向けのGPUに使われている「GDDR6」のメモリも同じラインで生産されている。HBMはGDDR6よりも高くてニーズがあるので、こちらも生産ラインの圧迫により数量が減る。同じ事情は、スマホやNintendo Switch 2で使われる「LPDDR5X」のメモリにも起きるので、コンシューマー機器は全面的に影響を受ける可能性が否定できない。
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