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AIで重要度が増す「動画の真正性」 カメラは登場したがワークフローに課題も ソニーとアドビに聞く小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/3 ページ)

» 2025年12月12日 18時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 ライブストリーミングでは真正情報が欠落する可能性もあるので、ソニーでは以前から紹介している「ニアライブ」の技術を使って処理する。

 これは動画を30秒ごとに区切ってファイル化したのち転送するチャンク転送方式で、受け側のサーバでどんどん送られてくるファイルをグローイングファイルとして組み上げる。このように30秒単位でいったんファイルを閉じることで、真正情報を付加しようというわけである。

 この伝送のため…だけではないだろうが、ソニーではLiveUと協業して、真正情報を付けたチャンク転送が可能な「LiveU TX1」を開発した。

真正情報の伝送に対応する「LiveU TX1」

 ただ、その先にまだ課題がある。30秒チャンクを結合して1本のファイルにすることは「改変」に該当するので、元の証明書がそのまま使えず、再証明の必要がある。よってグローイングファイルに再証明書を付加したいわけだが、これはチャンクファイルが全部そろって、全体としてファイルが閉じてからでなければ、再証明ができない。つまり成長している途中では付けられないのだ。

 グローイングファイルは、まだ転送が続いていても先の方から編集していけるのがメリットなので、全部そろって真正情報が付くまで待っていたら、そのメリットがなくなる。このため、現時点では30秒チャンクファイルを直接編集ソフトのタイムラインに並べていくという方法で解決するしかないのが現状だ。

 ただこれではグローイングファイルの良さも何もないので、現在はグローイングファイルの真正性をどうするべきか、検討が続けられている。

 ここまでの話は、プロキシのMP4ファイルの話だ。それと連動するハイレゾのMXFなどのファイルについては、上記のように対応検討中なので、プロキシからハイレゾに差し替えたときの真正性については、まだ証明ができていないというのが現状のステータスである。

編集時の真正性

 動画コンテンツでは、取材した映像を編集するのが常である。では真正情報が付加されたファイルの、編集ソフト側での扱いはどうなるのか。25年10月に米ロサンゼルスで開催された「Adobe MAX 2025」の機会に、AdobeのCAI担当シニアディレクターAndy Parsons氏に、「Adobe Premiere」での動作のお話を伺った。

 ソニー「PXW-Z300」とAdobe Premiereの最新βバージョンでサポートする真正情報は、C2PA仕様2.2というものである。

 Premiereの現在の実装では、真正情報を含んだファイルは、インスペクタ情報を参照すると確認できるようになっている。ただ、編集時にいちいちインスペクタを開いて確認するわけにもいかないので、次のバージョンではタイムラインにクリップを並べた際に、真正情報アリを示すアイコンが表示されるようになるという。

 真正情報があるクリップを分割すると、それぞれに対して真正情報が継承される。これはC2PAのファイル仕様として勝手にそうなるのではなく、現時点ではそうした動きをPremiereがサポートするから実現できる機能だ。

 C2PAでは将来的に「Regions of Interest」という機能を準備している。これはタイムコード領域に真正情報を付加するものだ。つまり全体は1つのクリップだが、その中でAIを使っているパートや実際にカメラで撮影されたパートが区別できるようになる。そしてこれを分割すると、片方にはAIパートが含まれるが、もう片方には含まれない、といった判断もできるようになる。

 一方で編集の際には、当然真正情報のない動画も使用することになる。これは真正情報がないから悪いということではなく、単に情報がないというだけで、それが別の方法で信用に足ると判断できれば使われることになる。タイムライン上では、真正情報のありなしが区別できるようになる。

 では編集後の最終出力はどうなるのか。完成したコンテンツ全体に対して、真正性を示す情報を付加するのは当然である。一方で、各編集素材に付けられた真正情報はどうなるのか。

 現時点では、全部の情報を残すこともできるし、残さないこともできるという仕様になっている。また全部の情報を残した場合でも、誰がそれを確認するかによって、フィルタリングしたり、要約したりするという運用が想定されている。

 例えばどのカットを何というカメラマンが何というカメラで撮影したのかといった情報は、局内の人間にとっては重要だが、コンテンツを見る視聴者にとっては不要だろう。ただ現時点でのPremiereは、そうした見せ方の調整といった細かい機能は実装されていない。

 最終的に視聴者が見ることになるストリーミングフォーマットとしては、「HLS」と「DASH」の2つがある。これらはファイルヘッダに情報の詳細が記されるとともに、2秒ごとに署名データが記録されている。

 これらのフォーマットをC2PA対応プレーヤーで再生すると、2秒ごとにリアルタイムで検証され、スクラブバーのところに真正情報の有無がアイコンで表示される。真正情報があるところは青く、何か改変されたところは赤くといった色分けもされるようになる。また最近の議論では、ライブストリーミングに対する情報付加のチームが活性化しており、次期バージョンには何らかの機能が載ることが期待されている。

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