2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
英ケンブリッジ大学などに所属する研究者らがScience誌に発表した論文「A small polymerase ribozyme that can synthesize itself and its complementary strand」は、たった45塩基の短いRNAが自己複製能力を持つことを実証した研究報告だ。
生命が生まれるためには、自分自身のコピーを作ることが欠かせない。コピーを作れなければ、どんなに優れた分子もいずれ壊れて消えてしまうからだ。現在の生命では、DNAが遺伝情報を持ち、タンパク質(酵素)がDNAの複製を助けている。
しかし、タンパク質を作るにはDNAの情報が必要で、DNAを複製するにはタンパク質が必要だ。では一体どちらが最初に生まれたのか。これはつまり、自己複製生命の起源における鶏と卵問題といえる。
この問題を解決しうるのが、生命の起源に関する有力な仮説「RNAワールド仮説」だ。RNAは情報を保存する能力(DNAのような役割)と、化学反応を触媒する能力(タンパク質のような役割)の両方を一つの分子で兼ね備えている。つまり、最初はRNAだけで情報の記録と自分自身のコピー作業の両方をこなしていた時代があったのではないか。これがRNAワールド仮説だ。
しかしこの仮説には根本的な矛盾がある。これまでに人工的に作られたRNAを合成できるリボザイム(触媒として使われるRNA)「ポリメラーゼリボザイム」は150〜300塩基もの長さを持つ。これほど長く複雑なRNAは、自分自身をコピーするのが難しいうえ、生命誕生以前の化学反応で偶然生まれる可能性も極めて低い。
原始地球で自然に生じるRNA鎖はせいぜい数十塩基と考えられている。複製能力を持つには大きくなければならないが、大きいと自然には生まれない。この板挟みがRNAワールド仮説の最大の弱点だった。つまり、数十塩基で自己複製できるリボザイムがあればRNAワールド仮説の矛盾を克服できるというわけだ。
研究チームは今回、この矛盾を打破できる「QT45」というリボザイムを発見した。約1兆種類のランダムRNA配列から、氷の中での人工進化を経て発見されたQT45は、45塩基という短さが特徴だ。またRNA鋳型に沿って3塩基ずつの部品をつなぎ合わせ、新しいRNA鎖を合成する能力を持ち、その能力によって自己複製の基本ステップを実行できる。
QT45の特徴は、自己複製に必要な2つのステップを両方とも実行できることだ。第1のステップは、自分(プラス鎖)と鏡像のように塩基対を成す相補鎖(マイナス鎖)の合成。QT45は64種類全ての3塩基部品を含むランダムなプールの中から正しいものを選び取り、1塩基あたり94.1%の正確さで自身の相補鎖を作り上げることができる。
第2のステップは、その相補鎖(マイナス鎖)を鋳型として、特定の3塩基部品と6塩基部品を使い、自分自身のコピー(プラス鎖)を合成できる。収率は約0.2%、反応には72日間かかっており、効率はまだ低いが、これほど小さなRNAでこうした活性が見られたこと自体が画期的だ。
Source and Image Credits: Edoardo Gianni et al. ,A small polymerase ribozyme that can synthesize itself and its complementary strand.Science0,eadt2760DOI:10.1126/science.adt2760
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