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AI軍事利用の「いつかきた道」 テクノロジーの使い方に誰が“鈴をつける”のか小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2026年03月14日 14時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

 今やAIは多数の企業とサービスが乱立する状態にある。消費者としてはすべてのAIサービスと契約することはナンセンスであり、能力やサービス提供方法、コストのバランスなどで選択が行われてきた。

 だが2026年2月から3月上旬にかけては、そうした要素以外の選択肢が示された可能性がある。これまでトップであった米OpenAIを退け、米Anthropicが「App Store」の無料アプリのダウンロード数で1位に急上昇した。

 これはAnthropicがAIの軍事利用を拒否する一方で、OpenAIが米国防総省との間で同社のAIモデルの利用に関する契約を締結したことが原因と言われている。実際にどのような理由で消費者が乗り換えたのかの調査・分析がまだ公表されていないため、「そうなのではないか」と予想されているに過ぎない。ただ実際に3月3日には同社の「Claude」が前例のないアクセス量を記録し、一般向けサービスがダウンした。

 2025年だったら、また話が違っていただろう。しかし米国は2026年に入って、ベネズエラへの侵攻とイランへの先制攻撃を仕掛けている。テクノロジーの戦争利用は、リアルな問題に昇華した。多くの消費者が、AIが戦争の道具になることを拒否するという意向を示したのであれば、テクノロジーの選択において「平和利用」が重要な選択肢になり得ることになる。

 ただ、実際にはそれほど綺麗に線引きできるのかという問題もある。

Anthropicと米国防総省の関係

 AIと米国防総省との関係は、2024年に始まる。この年、OpenAI、Anthropic、米Metaらは米国の情報機関および防衛機関が自社のAIシステムを使用できるよう、使用方針を一部変更した。この背景には、AIの軍事利用はもはや避けることができないため、なるべく早期に米国防総省との契約においてその利用範囲を限定にしたいという狙いがあった。

 Anthropicの動きに注目すると、2025年6月には政府専用モデル「Claude Gov」を発表し、機密データが扱える仕様とした。同年7月に米国防総省は、OpenAI、米Google、Anthropicなど複数のAI企業を対象とした大型利用契約を締結した。Anthropicはその中で、自律兵器への利用と国内監視用途を禁止したとされている。自律兵器とは、現時点では兵器型ドローンなどの無人航空機などと考えていいだろう。

 2026年1月に実施されたベネズエラ作戦において、Claudeが使用されたと複数の報道機関から発表があった。AIの軍事作戦利用を巡って、米国防総省とAnthropicは対立することとなった。

 2月27日に米国防総省はAnthropicとの関係を解消すると発表、その数時間後にOpenAIが同社AIモデルを国防総省が使用するための契約を締結したと、サム・アルトマンCEOが発表した。ただ3月1日のイラン攻撃においても、Claudeが使用されたと報道が出ている。これがどのような経緯で、どのように使用されたのかに関しては、情報は限定的だ。

 一方OpenAIは、米国防総省との契約を締結したことで「ChatGPT」を削除するユーザーが急増したことを受け、3月2日には契約内容を変更することに合意したと発表した。米国民を対象としたスパイ活動での自社システムの利用を明確に禁じる文言などを契約書に追加したとされる。

 3月3日には先ほども述べたように、Claudeが前例のないアクセス量を記録し、一般向けサービスがダウンするというトラブルが起こっている。

 3月5日にはかねてよりのトランプ氏の意向どおり、国防総省がAnthropicを米国の安全保障上の脅威となる「サプライチェーン(供給網)リスク」に指定した。通常は米国と敵対関係にある国のサービスや製品に用いられる措置で、過去中国HUAWEIや中国ZTEといった通信関係の中国企業が指定されたことがある。米国企業に対して実行されたのは前例がないはずだ。これでAnthropicの全連邦政府機関での同社製品の使用禁止が命じられた。

 この措置は、単にClaudeが米国政府内で使用されないということにとどまらない。Claudeはアプリケーション開発でかなりのソフトベンダーが採用しており、今後米国政府に納入するソフトウェア納入業者はプログラムがClaudeで開発されていないかをチェックする必要が出てくるかもしれない。また米国政府に配慮して、その周辺にある政府事業を請け負う民間企業でも、Claudeの利用を避けることになるだろう。Anthropicからすれば、いくら民間ユーザーの利用が増えても政府関連の利用減は埋められず、企業存続の危機に繋がる可能性もある。

 こうした措置に対して当然Anthropicは反発し、裁判で争う姿勢を見せている。また米国政府による前例のない米国企業に対する圧力に対し、米国市民の反発が強まることは必至だと思われる。

 特に米国の産業を代表するビッグテック企業が、この「見せしめ」に対してどのように反応するのかが注目される。米国政府の意向に従って、テクノロジーの軍事利用を受け入れるのか、それとも米国市民の意向に従ってテクノロジーの軍事利用から距離を置くのか。

 ただそもそも論を言えば、多くのテクノロジーは軍事利用から生まれたものであり、その後に民間利用へと転換されてきた。インターネットもそうである。テクノロジーの発展と軍事利用の関係は、一筋縄ではいかない。

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