デジタル通信の秘匿は、現代社会においては最重要の課題です。一般的に使われるセキュリティは通信の暗号化ですが、これは内容の秘匿はできても、通信したこと自体を秘匿にはできません。
豪ニュー・サウス・ウェールズ大学のマイケル・P・ニールセン氏などの研究チームは、一部の半導体で可能な「負の発光」(Negative luminescence)と呼ばれる原理を利用し、赤外線での秘匿通信(Covert communications)を行う実験を行いました。負の発光を利用するこの通信は、通信内容だけでなく、通信を行っていること自体を秘匿することができます。
今回の実験で試みられた通信の速度は100kbpsですが、原理的には最大で数Gbpsまで改善することができます。半導体材料を変えれば、数Tbpsの通信速度すら可能かもしれません。
通信内容を秘匿する技術としては、一般的には暗号化が挙げられるでしょう。通信を傍受しても、復号できなければ内容が漏れることはないという考え方です。とはいえこの方法は、傍受しても内容を秘匿できるというセキュリティであるため、通信をしていること自体を秘匿することはできません。暗号化した情報を蓄えることで、復号するための欠陥を見つけたり、将来的な技術発展で復号できてしまう恐れがあります。
もし、通信をしていることそのものを秘匿できれば、傍受やクラッキングの恐れを大幅に減らすことができるはずです。例えば、一見しただけではそこに情報が埋め込まれているのを悟られないようにする技術「ステガノグラフィー」は有名な例でしょう。
特にデジタルにおいては、画像データの中に別の画像や文章などの情報を混ぜるという例があります。隠された情報があると分からなければ解読しようと動くこともありませんし、大量の普通のデータに紛れさせれば、ステガノグラフィーを使っていると分かっていたとしても傍受は困難でしょう。
今回の秘匿通信技術に関する研究は、ステガノグラフィーと似たような考え方です。よく知られているように、熱を持つ物体からは赤外線が放たれます。日常的な空間では、どの物体も多かれ少なかれ赤外線を放っており、熱放射の赤外線に満ちています。では、このような環境で赤外線による通信を試みたらどうなるでしょうか?
普通の赤外線通信は「赤外線を放射する/しない」を切り替える形でバイナリーデータを送信するため、背景よりも明るい赤外線源として見えてしまい、通信していることを悟られてしまいます。しかし、もしもバイナリーデータの送信方法を「赤外線を放射する/吸収する」という形にするとどうなるでしょうか?
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