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“通信していることを悟られない”は実現可能か? 赤外線での秘匿通信、豪州チームが実験 着目したのは「負の発光」(2/3 ページ)

» 2026年03月31日 08時00分 公開
[彩恵りりITmedia]

 この状態で赤外線放射の平均値をとると、背景の熱放射と同じになります。赤外線の放射と吸収の切り替え速度が速ければ、その切り替え速度に対応できないデバイス(帯域幅が不十分なデバイス)では、通信内容を読むことはおろか、通信しているのかどうかすら知ることができないでしょう。

 このように、赤外線放射の平均値が背景の熱放射と一致するように工夫をすることで、通信をしていること自体を秘匿する技術が研究されています。

 しかし、赤外線を吸収するためには、普通ならば物体そのものを冷やす必要があるという点が技術的ネックとなっていました。物体を冷やすには時間がかかるため、冷却時間の分だけ通信速度が落ちてしまうからです。冷却を高速化する技術開発は続けられているものの、それでも通信速度では数百bpsが限界でした。

秘匿通信に応用可能な「負の発光」とは?

 ニュー・サウス・ウェールズ大学のマイケル・P・ニールセン氏などの研究チームは、従来とは異なるアプローチである「負の発光」を利用する方法で、中赤外線による秘匿通信を行う技術を開発しました。今回の実験では100kbpsと、従来と比べて桁違いに高速な通信であり、将来的にはGbps単位以上の通信が行えると見込んでいます。

 しかし、そもそも「負の発光」とはなんでしょうか? これは日常的に目にするLED(発光ダイオード)の仕組みを応用したものであり、負の発光は、ごく普通の発光(正の発光)と鏡写しのような関係となっています。まずは、普通の発光の仕組みについて解説しましょう。

図2:負の発光の原理は、普通のLEDが電流を流すと発光する原理の逆を辿っています(Credit:彩恵りり(全体の構成およびトリミング)/Michael P. Nielsen, et al.(サーモカメラで見た赤外線LED))

 LEDに使われる半導体は、電流として電気を運ぶモノ(電荷を運ぶキャリア)が異なる2種類を組み合わせて使っています。それは、電子が流れるn型半導体と、正孔(ホール)が流れるp型半導体です。電流を流した時(電位差を取った時)、電子と正孔はお互いに逆方向に流れるという性質をポイントとして押さえてください。

 n型半導体とp型半導体をくっつけ、特定の方向に電流を流すとどうなるでしょうか? 電子と正孔はお互いに逆方向へ流れるため、うまく方向を制御すれば、n型半導体とp型半導体がくっついている部分で電子と正孔が出会い、結合します。この時に発する光を使うのがLEDです。

 負の発光とは、通常の発光の逆の過程を利用します。負の発光には、光を受けることで電子と正孔が出現するような半導体を使っています。電子と正孔が結合して発光するのとは逆の過程であることが、負の発光と呼ばれる理由です。

 この状態で特定の方向に電流を流せば、電子と正孔はお互いに離れる方向へと動き、再度結合するのを防ぐことができます。この時、負の発光の時に流す電流の向きは、通常の発光とは逆向きであることが重要です。

 赤外線を放つLEDに対し、負の発光に適した半導体を使えば、電流の向きを切り替えることで「赤外線を放つモード」と「赤外線を吸収するモード」を切り替えられます。これは、従来の温度を切り替える方式よりも速やかに状態を切り替えられ、高速通信に適しています。

 LEDの発光では熱は発生しませんが、赤外線で見るとまるで熱を放出/吸収する物体であるかのように振る舞います。このためサーマルカメラなどで通信を見ようとしても、正負両方の発光の平均値は、背景放射に対してゼロの状態となり、通信をしていないオフの状態と区別できません。切り替えの速さに対応できるデバイスでなければ、通信しているのかどうかすら分からないことになります。

 これは余談ですが、今回研究を行ったニールセン氏は、2022年に「夜間太陽電池(night-time solar)」と呼ばれる技術を開発しており、今回の研究はその発展形となっています。これは、日中は普通の太陽光発電を行う一方、太陽光が無い夜間は熱を吸収して発電する太陽電池です。熱は赤外線であり、今回の研究に技術が応用されていることもうなずけます。

(関連記事:夜でも太陽光発電を使うには? “宇宙へ放射される赤外線”に注目、電気に変換する技術を開発

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