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分厚いカタログを検索アプリに、顧客の「探せない」解決 2万点超の製品抱える工具メーカーの海外開拓ニッチ企業でもできる!IT活用で海外進出

» 2026年03月31日 12時00分 公開
[本村丹努琉ITmedia]

 世界でも高い技術力を持つことで知られる日本企業。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営思想家のハーマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。

 グローバルニッチは高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて劣り、ITを駆使して海外でのブランディングや販売に生かしていることも多い。この連載では、こうした企業のIT戦略をインタビューで深堀りする。

 第11回はネジの切削工具であるタップを海外で販売する、やまわインターナショナル(東京都中央区)を取り上げる。同社は、2万点超ある自社製品から、顧客に最適な製品を探せるアプリを開発・活用し、海外市場の開拓に役立てている。

photo 藤森太一営業部長

 同社の藤森太一営業部長は「アプリに加えて海外人材を活用して海外企業と円滑なコミュニケーションを取れるようになったことが成功につながった」と話す。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手掛けるZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)。

厚さ3cmのカタログから検索アプリに

──やまわインターナショナルは切削工具などを販売しています。会社の概要を教えてください

藤森太一営業部長(以下、藤森): 当社はタップの専門メーカーである彌満和(やまわ)製作所(東京・中央)の100%子会社で、海外への販売を手掛けています。もともと彌満和製作所の貿易部門でしたが、2006年10月に分社化しました。

photo 同社が手掛ける切削工具

 タップとは、金属やプラスチックなどの素材にドリルで開けた穴、その内側に雌ネジを刻むための工具のことです。ネジやタップはあらゆる産業で使われており、当社の製品も自動車、船、航空機、電化製品、眼鏡や時計などさまざまな用途で利用されています。

──競合他社と比べてどんな強みがあるのでしょうか

藤森:当社の強みは、タップを材料の仕入れから生産までワンストップで手掛けていることです。海外で現地生産している他社と違い、日本だけで生産しているため、生産の工程や作業に着手してから完了までのリードタイムを管理しやすく、クライアントが要望する短い納期でも柔軟に対応できます。製品を作る機械の9割が自社製で、全数検査も行っていることから不良品が出づらいことも特徴です。

 海外顧客を意識した対応も行っています。日本のネジの規格はJIS(日本産業規格)ですが、ドイツではDIN、米国ではANSIという規格が使われており、それぞれにタップのつかむ部分の寸法などが違います。当社は全ての規格に日本国内で対応し、カタログにも全規格の製品を掲載しすることで、国内外の潜在顧客が製品を確認しやすくしています。

──ニッチ事業の中堅・中小企業は海外進出をためらうことも少なくありません。進出した理由やきっかけを教えてください

藤森:当グループは米国、ドイツ、イタリア、中国、ベトナム、台湾など14カ国・地域に販売代理店があり、親会社が運営する福島、山形など4工場で製造された商品を販売しています。

 海外進出のきっかけは、1977年に日本の大手商社を通じてタイの販売代理店から「タイで製品を販売してみないか」と言ってもらえたことです。タイには自動車など日系企業が多く進出しており、当社の製品をPRするチャンスだと考え、進出することに決めました。自動車やIT、精密部品などの現地メーカーから多くの引き合いがあります。成長が加速しているアジア諸国をはじめとした海外の需要を取り込めれば、当社自身の業績拡大にもつながると考えました。

 最も海外売上比率が高いのは中国などアジア諸国です。人件費の安いアジア諸国には多くの日本企業が進出しており、「世界の工場」になっていることから、当社のタップの需要も高まっています。日本企業の場合、日本で使っているタップを東南アジアで使うことも多く、同じものを現地にも供給していくことができます。

 アジアは距離的にも近く、出張もしやすいため、ユーザーを訪問し、技術サポートもしやすいメリットがあります。欧米諸国は1回当たりのオーダー数や単価が高く、今後の需要拡大に期待が持てます。今後は南アフリカやインドの市場も開拓しようとしています。

──海外では代理店を通じて製品を販売しているということですが、どのように市場を開拓してきたのでしょうか

藤森:例えばベトナムでは2016年から18年の間に5回、ハノイとホーチミンの展示会に出展しました。切削工具や測定工具、工作機械、金型システムなどの製造業が出展する展示会で、毎年1回ずつ開催されています。

photo ベトナムでの展示会の様子

──最初の展示会は手探りだったと聞いています

藤森:最初は現地の販売店の力を借り、装飾が無いブースで商品とリーフレットを並べたり、ポスターを貼ったりしました。ただ、あまり経費をかけられなかったこともあり、商談用の机、いすを借りただけの簡素なブースでした。同業他社と比べて見栄えが良くなく、ブランドイメージの向上につながらなかったように思います。

──2回目以降の出展は工夫・改善したとのことですが、具体的にどう修正したのでしょうか

藤森:初回の反省を踏まえ、展示台を製作してそこに商品を展示したり、ノベルティーを準備して集客力を高めたりしました。また、スマートフォンで商品検索や切削速度や回転速度の計算ができる「商品検索アプリ」も開発しました。

──開発した商品検索アプリについて詳しく教えてください

藤森:アプリは2017年7月に開発しました。その国の規格やネジのサイズ、加工するネジの材質を入れると、当社の製品から最適なものを検索できます。当社の製品数は2万点以上もあり、カタログは3cmほどの厚みがあります。このため最適な製品を検索するのは容易ではなく、アプリが必要だと考えました。アプリを使えば、最適なタップの回転数や速度なども自動で計算できます。

photo 商品検索アプリ

──展示会でのアプリの反響はいかがでしたか

藤森:展示会でアプリをインストールするQRコードを明示し、インストールしてくれた人に当社のロゴの入ったオリジナルスマホリングをプレゼントして利用を促しました。結果、多くの販売代理店やエンドユーザーなど潜在顧客から「とても検索が速くて使いやすい」と言っていただきました。現地の代理店もすぐに見つかりました。

 もちろん、代理店だけ見つかればいいというわけではありません。代理店が決まった後の展示会の出展目的はユーザーの開拓です。代理店2社はライバル会社同士なので2社で立会いをすることの難しさを痛感しました。また、日常的に英語を使用していない国でありベトナム語でのコミュニケーションが必要で、運営の難しさを改めて認識しました。

──海外顧客とのコミュニケーションの円滑化のため、外国人も積極的に採用していると聞いています

藤森:当社は23年以降、外国人を採用しています。現在、台湾、香港、タイ、ベトナム、ケニア、スウェーデンの出身の社員が在籍しています。彼らが英語ではなく、現地の言葉で顧客とコミュニケーションを取ると商談のスピードが速くなります。また、専門用語が分からない通訳にお願いするよりも、知識があり、会社の方針を理解している当社の外国人社員から説明すると当社の製品の良さがより伝わります。

 例えばベトナム企業とは、ベトナム人社員がベトナム語のメールやSlackなどを通じてやりとりしています。南アフリカの市場開拓では、ケニア出身の社員が中心となって取り組んでいます。グローバル人材が会社にいることで海外市場の開拓が円滑になると思います。

──海外ではどのように自社情報を発信していますか

藤森:現地代理店の公式サイトを通じて、現地語に翻訳したリーフレットや動画、販促資料を掲載しています。新商品が出たら迅速に動画をアップするようにし、海外でタップを調べた時にもヒットしやすくしています。

 また、商品動画はターゲットとなる産業や部品などが分かりやすいよう心掛けて作っています。SNSでの発信も行っており、XやInstagramでも商品紹介や加工動画を定期的に更新しています。

著者プロフィール:本村丹努琉 Zenken取締役

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社(現:Zenken株式会社)に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」(現:グローバルニッチトップ事業本部)の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸とした WEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。

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