2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
京都大学などに所属する研究者らが2024年3月に発表した論文「Continuous inhalation of essential oil increases gray matter volume」は、バラの香りを嗅ぎ続けると脳の構造がどうなるかを分析した研究報告だ。
香りがもたらすリラックス効果は広く知られているが、衣服に香りをつけて持続的に嗅ぎ続けることが、実際の脳の構造にどのような影響を与えるかはこれまで解明されていなかった。
そこで研究チームは、健康な女性50人を対象に、日常的な香りの使用が脳に与える変化を調べる実験を行った。
実験では、参加者を2つのグループに分け、一方にはローズの精油(エッセンシャルオイル)を、もう一方にはただの水を、それぞれ1日2回衣服のシールに垂らして1カ月間生活してもらった。なお、実験の対象を女性に限定したのは、過去の研究から女性の方が匂いに敏感であり、香りの効果が表れやすい、また香りを身につける習慣のない男性は不快に感じて脱落する可能性があるためと説明している。
1カ月後に参加者の脳をMRIで撮影して比較したところ、ローズの香りを身につけていたグループにのみ有意に変化が見られた。脳の神経細胞が集まる灰白質のボリュームが、脳全体で増加していた。
さらに詳しく見ると、とくに記憶や匂いの結びつけに関わる後帯状皮質(PCC)というエリアのボリュームが増えていることが分かった。このPCCという脳の部位は、アルツハイマー型認知症を発症する際、初期段階で萎縮し始める場所として知られている。
今回の結果は、衣服にバラの香りをつけて日常的に嗅ぐという手軽な習慣が、脳の萎縮を防ぎ、将来的な認知症の予防に役立つ可能性を示している。
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