ただ、DTCの成立に求められるハードルは低くない。携帯電話と衛星を専用アンテナなしに直接結ぶDTCは、地上の基地局よりはるかに遠い数百km上空の衛星と、スマートフォンの微弱な電波でリンクを張る必要がある。
これを「1日7割の時間帯でビデオ通話可能」な水準で全国に提供するには、最低でも数百機規模の低軌道衛星を軌道上に配置したコンステレーションを構築し、衛星間通信や軌道制御を含めて統合運用する必要がある。
先行例を見れば、StarlinkのDTC衛星は26年1月時点で650機超、AST SpaceMobileも商用化の目標を240機規模としている。数年かかる衛星の生産ライン整備、複数の衛星を一度に搭載できるロケットの確保、地上設備とMNO連携などが可能でなければ成立しない事業だ。
そもそもDTCは技術的にもまだ固まりきっておらず、国際的な議論、調整が残る状況だ。周波数調整や他衛星との干渉回避を含め、すでに大規模な衛星コンステレーションの実装経験を持つ事業者でなければ、短期間では乗り越えられない。
日本国内には、現在まだDTC向けに数百機規模の衛星を量産・打上げ・運用するインフラを保有、経験している事業者は存在しない。国内のMNO4社はいずれもDTC参入を表明しており、KDDIはSpaceX、楽天モバイルはAST SpaceMobileと組んでいる。ソフトバンクとドコモも2026年中の提供開始を表明しているが、まだ提携先衛星事業者の選定段階にある。つまり国内MNOは「衛星コンステレーションを自前でゼロから構築する」のではなく「海外DTC事業者の衛星網を借りて顧客に届ける」ポジションにある。
国内の衛星メーカーやスタートアップも、地球観測衛星が中心で、DTC用の衛星を数百機規模で29年3月までに軌道投入できる体制は整っていない。純国産DTC網は3年以内に達成できる状況にはないといってよく、J-LEOの期限内達成には、すでにDTCの衛星網を構築している海外事業者の参画が事実上の前提条件となる。一方で地上施設の設置要件を考えれば、日本側にも事業主体が必要となる以上、海外DTC事業者と国内MNOの連携によるコンソーシアム方式が有力そうだ。
肝心のJ-LEOの要件を提供できる事業者は、現実的には2社が最有力だ。SpaceXのStarlinkはすでに600機以上のDTC対応衛星を運用し、日本ではKDDI(au)と提携して「au Starlink Direct」を提供している。現状はビデオ通話よりもテキストメッセージなどが中心だが、衛星の展開能力からいってJ-LEOの全要件を最も短期間で満たせる候補といえる。
一方で楽天と提携するAST SpaceMobileは、スマートフォンを使った双方向の衛星-モバイル間ビデオ通話実証をすでに発表している。ビデオ通話の要件と最も整合する技術アプローチだ。248機の衛星は現在展開中のため実現までのリードタイムがやや長くなるが、機能面での優位性は高い。
他にも海外勢では米衛星通信事業者Lynk&米通信プロバイダーのOmnispace、衛星ネットワーク「Amazon Leo」を展開する米Amazon.com&米衛星通信事業者Globalstarといった陣営も急速に体制を整えつつあるが、いずれもJ-LEOの3年期限内にビデオ通話水準のDTCを全国展開できる段階とはいいにくい。
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