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採択迫る“日本版スターリンク”の最新状況、軍配は誰に? 楽天・AST陣営は計画を大幅変更(3/3 ページ)

» 2026年06月11日 08時00分 公開
[秋山文野ITmedia]
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AST SpaceMobileは大幅構成変更

photo Image Credit: AST SpaceMobile

 こうした中で有力候補の一つであるAST SpaceMobileに新たな動きがあった。同社が展開する「BlueBird衛星」248機規模の衛星コンステレーションについて、軌道構成を大きく変更したことが、26年3月にITU(世界電気通信連合)へ提出した申請情報から確認できた。

 ITUは、世界の人工衛星が利用する電波の情報を集約、管理している。衛星打上げ前に各国は軌道(どこを飛行するか)、何機の衛星がそれを利用するのか、どの周波数帯を利用するのかという情報を申請し、他の衛星との調整をはかる。ASTは過去に248機の構成を提出しているが、これを1機増やした上で、高度などの軌道をかなり変更してきたのだ。

AST SpaceMobile従来案(248機)

高度 軌道傾斜角 軌道面数 1軌道面の衛星数
730km 0度(赤道) 1 18
735km 40度 10 15
740km 55度 5 15
525km 53度 1 5

AST SpaceMobile新案(249機)

高度 軌道傾斜角 軌道面数 1軌道面の衛星数
690km 53度 192 1
685km 98.13度 2 14
520km 53度 7 5/8/3×4/2
520km 97.5度 1 1
460km 50度 1 1

※いずれもITU提出資料より筆者まとめ

新案の狙いは? 日本エリアで有利になる要素

 要件変更の中身を読み解いていこう。衛星コンステレーションを構成するには、軌道の高度に加えて「軌道傾斜角(赤道に対する軌道の傾き)」と「軌道面数(地球の中心を通る軌道の数)」、1軌道面あたりの衛星数という情報が重要になる。

 衛星は軌道傾斜角の数字が示す緯度帯の上空まで飛来する。例えば傾斜角50度ならば、南北の緯度50度上空まで来ることになる。電波はそこからさらに広い範囲に到達するものの、衛星が真上に見えていると通信条件はもっとも良くなることから、軌道傾斜角は「重点的に通信を届けたい地域の指標」とみなすことができる。

 軌道面数と衛星数は衛星総数、コンステレーションのボリュームに直結し、どの程度切れ目なく衛星がある地域の上空を飛行するかを測ることができる。こうした軌道の計画を変更調整するのは、サービスの内容を調整する意志があるといえる。例えば、以下のような意図が読み取れるだろう。

高緯度カバレッジの改善

 新案では192機の主力が傾斜角53度に上がっていて、北海道(北緯43〜45度)を含む日本全土で天頂を通過するパスが見込める。建物や地形によって電波を遮られにくく、DTCのようにスマートフォンの上向きアンテナで受信する用途では効果が見込める。

軌道面の細分化と可視時間トレードオフ

 高度690kmの主要なグループは192軌道面にそれぞれ1機ずつ、192機が周回する構成になっている。地球上のどの地点から見ても上空の異なる方位に衛星が見えやすくなり、DTC向けに「常時1機以上が見える」条件を満たしやすくなる。一方で全体の高度が下がっていて、1機あたりの可視時間(通信可能時間)は短くなるというトレードオフが生じている。

軌道高度とスループット

 高度を旧案より低く調整したことで、地上との距離が近づき電波の損失は少し小さくなる。携帯電話の微弱な電波を捕まえるDTCでは、この差が実効スループットに直結し、旧案にはなかった高度520kmの27機は日本の都市部のような需要密度の高いエリアに対して有効性を上げる可能性がある。

photo 出典:2026年5月11日AST SpaceMobile事業報告より

 AST SpaceMobileが5月11日付けで米証券取引委員会に提出した資料によれば、打ち上げ済の「BlueBird Block1衛星」と、海上で未改造スマートフォンを用いて行った通信試験では、98.9Mbpsのピーク速度を達成したという。これは電波干渉の少ない条件の良い海上で行った試験であって実効スループットを保証するものではない。だが、ビデオ通話に必要なダウンリンク、アップリンク共に1.5〜3Mbpsを超える通信性能の実現に向けて衛星の実装が進んでいるといえそうだ。

 さらにASTは2026年中にBlueBird衛星45機の打ち上げを計画しており、ピーク速度を120Mbpsに引き上げると表明している。衛星の打ち上げを進めつつ、日本での1500億円規模の政府投資をテコに中〜高緯度帯でビデオ通話のような付加価値の高いサービスを実現するために衛星の設計も見直している、と考えられる。衛星の展開能力で勝るKDDI&Starlink陣営に対し、強みである機能面での優位性をさらに強化してきた、とみることもできるかもしれない。

photo 出典:2026年5月11日AST SpaceMobile事業報告より

 一方で、宇宙輸送の面ではAST SpaceMobileは弱みを抱えている。5月30日には米Blue Originの大型衛星打ち上げロケット「New Glenn」がフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地の発射台で試験中に爆発を起こした。

 射点が大きく損傷していることで同社の打ち上げ計画は当面見込めなくなり、今後予定しているNew GlennでのBlueBird衛星打ち上げが遅れる可能性もある。SpaceXなど他のロケットにも打ち上げを委託していることから、分散化で計画への影響を吸収できるかも重要になる。

 採択事業者は2026年6月末ごろに公表される見通しだ。J-LEOは「自律性確保」を制度目的に掲げているが、現実的な形として海外DTC事業者の力を借りる形になるだろう。

 それでも衛星管制や地上局の国内設置を要件とすることで、低軌道通信衛星コンステレーションの運用知見を日本国内に蓄積する仕組みになっている。災害時の通信を含む社会基盤としての衛星DTCを国内で持続的に運営する基礎が、この採択を起点に積み上がっていくことになる。果たしてどの事業者がその基盤を受け持つことになるか、目が離せない。

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