不老不死に大金注ぐIT富豪たち 我が身で人体実験、若者の血を輸血……Natureが過熱指摘(1/2 ページ)
科学誌「Nature」が6月16日に報じたところによると、現在、IT業界の富裕層や起業家たちの間で、有効性が証明されていない薬やサプリメントを使って自らの体を改造し、寿命を延ばそうとする「バイオハッキング」が過熱しているという。
例えば2019年、IT起業家のブライアン・ジョンソン氏は寿命を延ばすため、通常は臓器移植の拒絶反応を抑えるために使われる免疫抑制剤「ラパマイシン」を毎日注射する自己実験を始めた。
しかし、皮膚の感染症や血糖値の異常といった副作用がメリットを上回ったとして、24年9月にこの実験の中止をSNSで報告した。巨万の富を持つ彼は、有効性が証明されていない薬やサプリメントを日常的に自らの体で試すバイオハッキングを行うテクノロジー起業家の一人である。
ジョンソン氏のように自らの身体をハックし、その過程をSNSで発信して長寿の秘訣を共有する富裕層やインフルエンサーは少なくない。しかし、当人たちが推奨していた健康法を突如として取り下げることも珍しくない。
例えば、シリコンバレーで脳の働きを良くすると持てはやされていたサプリメントが、のちに動物実験で脂肪肝に似た症状を引き起こす可能性が指摘され、著名な起業家たちが慌てて警告を発する事態も起きている。
他にも、FDA(米国食品医薬品局)が警告している若年者の血液を輸血したり、120歳まで生きるためにヒト成長ホルモンを摂取したりと、有効性や安全性に疑問符がつく手法に飛びつくITリーダーたちは後を絶たない。
こうした富裕層の長寿インフルエンサーたちは、まだ初期段階の科学を大衆に広める役割を担ってしまっている。当人たちは難しい専門用語を使って科学的に見える説明をするため、多くの人はそれがすでに証明された安全な方法だと勘違いしやすい。中にはインフルエンサー自身がサプリメントを販売し、利益を得ているケースもある。
その結果、自分の体の状態を調べる検査すら受けずに、SNSで話題になった特定の成分や薬をいきなり専門クリニックに求める人々が増加した。医療現場では、一部の富裕層が行う非公式な実験結果がそのまま世間の基準として受け入れられてしまう現象に、強い危機感が広がっている。
老化や長寿を研究する科学者たちは、当人たちの手法がすべて無意味だと全否定しているわけではない。既存の糖尿病薬や減量薬など、将来的に老化防止に役立つかもしれない有望な成分は確かに存在するし、当人たちの行動の背景にはある程度の生物学的な根拠がある。
しかし最大の問題は、人間に対する適切な臨床試験が行われていないことだ。動物実験で効果が出ただけの不十分なデータの中から、本当に効果のあるものと無関係なものを一般人が区別するのは極めて難しい。
専門家は、ITビジネスで大成功を収めたからといって、人間の老化という複雑な現象まで自分たちの思い通りにコントロールできると思い込むのは、テクノロジー業界特有の傲慢さであると指摘している。
著者紹介:山下(Seamless)
研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す。ITmedia NEWSでも、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する「Innovative Tech」を連載中。
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