トークンと人件費を同じ基準で測る。そう聞けば、次に浮かぶのは「AIで人を減らすのか」という問いだ。この問いに、各社はそろって否定で答える。だが、その否定の中身は一様ではない。
メルカリの木村氏は「人件費を落としたいというのは一切ない、というところだけは宣言しておきたい」と言い切る。AIで一人一人の生産性が上がれば売り上げも伸びる。人がAIを使って成果を上げ、その範囲でトークンコストとのバランスを取る、という筋立てだ。
新卒採用も絞らない。むしろAIネイティブな若手は「逆に貴重だ」と話す。新しい働き方をゼロから受け入れられるのは若手、という理由だ。
ラクスの本松氏も、人減らしを目的に置かない。人の仕事が楽になった分だけトークンに払うのでは割に合わない。だが「人件費の削減に見合うトークンコストがかかるのはOK」だとし、人とトークンをセットで見ていく構えだ。
ここまでは「削減ではない」で各社が足並みをそろえる。そこから先を見据えた発言をしたのがSansanの大間氏だ。
同社ではAI利用率はほぼ100%に達しているという。一方で「『使っている』のと『業務が変わっている』の間にはギャップがある」と認める。そのうえで、採用をめぐって一歩踏み込んだ見方を示す。
同社は採用そのものは緩めていない。27年度の新卒採用は過去最高の170人に拡大し、初任給は実質年収640万円に引き上げた。「強い意志と高い能力を持った人材がAIを使ってこそ、AIは真価を発揮する」(大間氏)という経営判断だという。
一方でこうも語る。「本来採用するはずだった新規採用をAIに置き換えているので、近い未来に発生する可能性のあった人件費を削減しているとも言えるかもしれない」(大間氏)。採用予定だったポジションの業務をAIで設計し直し、募集をかけずに埋める取り組みが、すでに走っているのかもしれない。
既存の社員を減らすわけではない。採る予定だった枠を埋めずに済ませる。表に出る人員数は減らないまま、本来生まれるはずだった雇用がAIに置き換わっていく流れは始まりつつある。
もっとも、各社とも予算上はトークンと人件費をまだ別建てで管理している。ラクスもLayerXもメルカリも、この点は共通する。LayerXの石黒氏によれば、従業員を1人増やすか、外注を減らしてトークンに回すか、といった議論は月次で交わされ始めている。だが2つの予算を統合し、同じ物差しで人とAIを比べる段階には至っていない。
そこには技術的な壁もある。トークン消費と具体的な成果をどう対応づけるか、部門間でどう配賦するか、評価にどう反映するか。Sansanの大間氏も、これらを「業界全体としてまだ試行錯誤している段階」とみる。トークンと成果を突き合わせる方法そのものが、まだ定まっていない。
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