2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
オーストリアのウィーン獣医大学に所属する研究者らがFrontiers in Psychology誌に発表した論文「Deference or sociability? Insights from dogs’ and wolves’ human-directed behavior in a food-conflict task」は、犬の人なつっこさが「社交性」と「服従性」のどちらに由来するのかを探った研究報告だ。
研究背景には2つの説がある。1つ目の社交性説は、家畜化により犬が人との接触を強く求めるようになったとする考え。もう一つの服従性説は、人の意向に従い、喜ばせたいという性質に進化したとする考えだ。従来は友好的な場面ばかりで調べられ、どちらも人に寄るという同じ行動になり区別できなかった。そこで今回はあえて対立場面を用意した。
実験では、人に育てられた犬11頭とオオカミ12頭を対象に、餌を巡る綱引きで葛藤する場面を作り、両種の反応を比べた。信頼するトレーナーが餌を綱で引き合い、犬やオオカミが取ろうとすると大声で「ダメ、これは私の」と抗議した。
もし社交性説が正しければ、人間が怒っていようが人と関わりたい欲求が勝り、人への親和的な行動は変わらないはず。もし服従性説が正しければ、犬は人間が嫌がっているのを察して綱を引くのを辞めるはずだ。
結果はどちらの説にもきれいには当てはまらず、混在した。オオカミは犬より長く綱を引き続け、犬は人が力を込めるとすぐに放した。犬はオオカミより課題に取りかかるのは速かったが、ロープを引かずに触ったり嗅いだりすることも多かった。また、犬はオオカミより人へ向けた行動(尾を振る、見つめる、そばにいる)を多く示した。
研究者らはこれらの行動に対して、犬は「訓練された引っぱれという指示に従う」のと「抗議する人間に従う」のとの板挟みになっていたのかもしれないと推測している。
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