「命知」とは何か。
きっかけは幸之助がある宗教の本部を見学したことだといわれる。
パナソニックミュージアムによると、喜んで奉仕する信者の姿に心打たれた幸之助は、悩める人々を導く宗教と事業の違いに思いを巡らせた。
そして自分らの仕事は「貧を除き富をつくること」とした上で「あらゆる人間の生活を富み栄えせしめるところの生産、その生産こそわれわれの尊き使命である。人間生活は精神的安定と物資の豊富さによってその幸福が維持される」と考えた。つまり「物心一如の繁栄」(物と心が共に豊かな理想の社会の実現)を真の使命としたのだ。
幸之助は1932年、大阪市北区の中央電気倶楽部に全店員(幹部社員に相当)を集めて、こう宣言した。
「精神的な安定と、物資の無尽蔵な供給とが相まって、はじめて人生の幸福が安定する。ここに実業人の真の使命がある(中略)真の使命は、生産に次ぐ生産により、物資を無尽蔵にして、楽土を建設することである」
このため同HDは32年を命知元年と定める。
幸之助は真の使命の達成のため25年を1節とし、それを10節繰り返す「250年計画」を発表した。一人が社会で働く期間を平均25年くらいとすると10世代続ければいいと考え、「次の世代、そのまた次の世代に、この使命達成の仕事を引き継いでもらいたい」との思いを込めた。
こうした歴史について楠見氏は「物心両面の豊かさの実現を目指す考え方は現代でも決して前時代的ではない」と強調。「理念だけを繰り返しても抽象的になるので、もう少し解像度を上げて何で成長するのかを共有して進む。その一歩がグループ成長戦略だ」と説明する。社会課題は貧乏の克服からアップデート。エネルギーの有効活用と現場労働力不足の解消は、同HDが強みを発揮して解決に貢献できるとした。
「創業者が確立した経営基本方針に則(のっと)って経営する会社だ」
報道関係者の合同取材で同HDがどんな会社になるかを問われ、楠見氏はこう答えた。
さらに「創業者が存命だったころは『お客さまの本当のお困りごとを先回りして考えなければならない』という考え方がもっと強かった」と続けた。
幸之助はかつて「(顧客の)番頭になった気持ちで真にお客さまに寄り添い、困りごとや課題の本質、将来を見通して本当に役立つものを具現化するように…」と語ったことで知られる。
「客の好むものを売るな。客のためになるものを売れ」という言葉も残る。これは社会オペレーションを支える事業などに通底する心構えだ。
新たなグループ成長戦略を打ち出した楠見氏にはまず、本業のもうけを示す調整後営業利益を2028年度に7500億円以上(25年度=4474億円)に引き上げる目標が待ち受ける。
同HDは1984年度に営業利益約5700億円と過去最高を計上してから40年以上更新できていない。2026年度は調整後営業利益6000億円を見込み、会計基準が違うため単純比較はできないが、予想通り上回れば長期停滞から脱したともいえる。「経営の神様」の旗印のもと、社員それぞれが戦略の意図と意義を共有して成長に踏み出せるか。真価が問われる。
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